眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
シャワーから上がると、湯気を払ったばかりの髪がまだ少し湿っていた。
リビングにはやさしい音が漂っていた。
カチャカチャと器を重ねる音。
フライパンから聞こえるジュウという音。
キッチンには、匠がエプロン姿で立っていた。
ちょうど昼時――どうやら料理をしてくれているらしい。
「ねえ、手伝うよ」
そう言って隣に立つと、匠は迷いもなくぴしゃりと答える。
「だめ。座って」
「そんな、体は動くし……」
「おとなしくしてて。医者に言われたから」
不服そうにしながらも、一度は言われるままソファに腰を下ろす。
でも、じっとしているのはやっぱり落ち着かない。
目に留まった、自分のバッグ。
帰宅してからずっとそのままだった。
何気なく手に取り、中身を片付けようと手を入れた瞬間――指先に、硬めの手帳の感触。
それが何かすぐにわかった。
赤尾家について記録していたノートだった。
見ない方がいい。
まだ、早いってわかってる。
でも――気づけば、ページをめくっていた。
書き込まれた文字。
家の間取りのメモ。
悠真の様子、香澄の言葉、対応の時系列。
何度も読み返した内容なのに、今はまるで刃のように胸に突き刺さる。
あの息苦しさ。
あの部屋のにおい。
扉を開けた瞬間の、嫌な静けさと――死の気配。
「っ……」
思わずノートを閉じて、手を震わせながら机の上に置いた。
胸が、きゅうっと締めつけられる。
呼吸がうまくできない。
酸素が足りない。
肺に届かない。
浅く速くなる呼吸。
――まただ。
何度も落ち着こうとしても、脳裏にはあの光景が繰り返しフラッシュバックして、逃れられない。
視界が滲む。手が冷たくなる。
過呼吸――始まってる。
頭ではわかってるのに、体が言うことを聞かない。
そして、音を聞きつけた匠が振り返った――。
リビングにはやさしい音が漂っていた。
カチャカチャと器を重ねる音。
フライパンから聞こえるジュウという音。
キッチンには、匠がエプロン姿で立っていた。
ちょうど昼時――どうやら料理をしてくれているらしい。
「ねえ、手伝うよ」
そう言って隣に立つと、匠は迷いもなくぴしゃりと答える。
「だめ。座って」
「そんな、体は動くし……」
「おとなしくしてて。医者に言われたから」
不服そうにしながらも、一度は言われるままソファに腰を下ろす。
でも、じっとしているのはやっぱり落ち着かない。
目に留まった、自分のバッグ。
帰宅してからずっとそのままだった。
何気なく手に取り、中身を片付けようと手を入れた瞬間――指先に、硬めの手帳の感触。
それが何かすぐにわかった。
赤尾家について記録していたノートだった。
見ない方がいい。
まだ、早いってわかってる。
でも――気づけば、ページをめくっていた。
書き込まれた文字。
家の間取りのメモ。
悠真の様子、香澄の言葉、対応の時系列。
何度も読み返した内容なのに、今はまるで刃のように胸に突き刺さる。
あの息苦しさ。
あの部屋のにおい。
扉を開けた瞬間の、嫌な静けさと――死の気配。
「っ……」
思わずノートを閉じて、手を震わせながら机の上に置いた。
胸が、きゅうっと締めつけられる。
呼吸がうまくできない。
酸素が足りない。
肺に届かない。
浅く速くなる呼吸。
――まただ。
何度も落ち着こうとしても、脳裏にはあの光景が繰り返しフラッシュバックして、逃れられない。
視界が滲む。手が冷たくなる。
過呼吸――始まってる。
頭ではわかってるのに、体が言うことを聞かない。
そして、音を聞きつけた匠が振り返った――。