眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
数日後の土曜の夕方。
花音の姿は、再び早瀬家にあった。

リビングのソファに腰かけた彼女の膝の上には、すっかり懐いたミルクがどっかりと乗っている。

匠は、キッチンカウンターで少し早めの夕食を終え、スーツに着替える準備をしていた。

その日の午前中には、瑠奈が花音の自宅を訪れ、友人ではなくカウンセラーとして話を聞いてくれた。

花音が自分の気持ちを言葉にするたび、瑠奈は丁寧に頷き、時折メモを取りながら記録として残していった。

「医療が必要になったら、いつでも繋げるから」と柔らかく告げ、最後に「また来るね」と言って、玄関でハグをして帰っていった。

夜をひとりで過ごすことに、まだ少し不安がある花音を見て、匠が「今夜は実家に行こう」と促した。

最初は遠慮したが、花音が「行ってみてもいいかな」と頷いたとき、匠の表情がふっと和らいだのを、彼女は見逃さなかった。

その結果が、今だった。

「ミルクも可愛いけど、花音ちゃんもほんと可愛いわねえ〜」
母・由香里は、すっかり母モード全開で、膝上の猫と花音の髪を交互に撫でている。

「なにそれ、猫と同列じゃん……」
笑って匠が言うと、父が即座にかぶせてきた。

「花音ちゃんは猫じゃないぞ、由香里」

「んふふ、でも今晩はミルク、花音ちゃんと寝るかもねぇ。……ちょっと寂しいわぁ」

由香里がおどけたようにそう言うと、匠がワイシャツのボタンを第二まで閉めながら振り返る。

「……あんまり構いすぎないでよ。花音、疲れちゃうから」

「わかってるってば〜、静かにしますよ」
母はそう言いながら、目尻を下げてミルクの頭をなでる。

「じゃあ俺の、野菜栽培の流儀でも聞いてもらおうかな」

と父がニコニコしながら口を開いた瞬間──

「それが一番重い」
匠と母が、声を揃えてハモった。

思わず花音は吹き出す。

その瞬間、ふと胸に浮かんだのは──
「ああ、この人たちは本当に親子なんだ」という、ほのぼのとした実感だった。

どこか遠慮がちに入ったこの家にも、少しずつ自分の笑い声がなじんできた気がする。
ミルクが喉を鳴らす音が、また静かな夜を連れてくる。
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