眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
草取りも終え、脱走したミルクの真っ白な足についた土を玄関先で花音がふいていると、タイミングよく玄関のドアが開いた。

「ただいま」

匠だった。
仕事帰りのジャケット姿のまま、少し驚いたように目を見開く。

長靴を履いた花音と、その膝に乗せられている土足まみれのミルクを見て、眉をひそめる。

「……父さーん! 何やらせてんの!?」

少し不満げな声。
畑から戻ってきた博志が、手袋を外しながらとぼけた顔で答えた。

「え? 花音ちゃんに草哲学、教えてただけなんだけど」

「……マジでいい加減にして」

苦笑交じりに呆れたような匠に、花音は吹き出しかけながら首を振った。

「ちがうの。私がやりたいって言ったの。そしたらミルクが勝手についてきちゃって……見て、足が真っ黒」

「はぁ……お前ほんと自由だな」

そう言いながら匠はしゃがみこみ、花音に目線を合わせると、そっと頭をポンポンと撫でた。

「……なんともなかった?疲れてない?」

「うん、大丈夫。楽しかった」

そのやりとりを見ていた博志が、口元をニヤつかせながら言う。

「おお〜、親の前でイチャイチャとは大胆なやつめ」

「や、やめてくださいってば……!」

花音はミルクを抱き上げ、顔を赤らめながら視線をそらす。
そこへ、奥の台所から由香里の明るい声が飛んできた。

「はーい、ちょっとお茶にしよー!」

「あ、行きますー」

恥ずかしさを紛らわせるように花音は小走りでリビングへ。
ミルクもふにゃっとした声を上げながら、その腕の中で収まっている。

玄関先に残された博志は、靴を脱いでいる匠の隣に立つと、ふと安心したように言った。

「大丈夫だったよ。夜、こっそり様子見たけどな。ミルクとぴったりくっついて、ぐっすり寝てた」

匠はそれを聞いて、少しだけ肩の力を抜くように息をついた。

「……そっか、ありがとう」

土と猫の匂いが混じる玄関先に、ふわっとやわらかい空気が流れていた。
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