眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
匠の唇が触れるたび、花音の体から力が抜けていった。

最初はそっと重ねるだけの、柔らかなキスだった。
それが次第に、呼吸を奪うような深さへと変わっていく。

唇が離れるたび、互いの吐息が肌を撫で、また自然と引き寄せられる。

花音の背に添えられた匠の手は、ゆっくりと上に滑り、肩から頬へと輪郭をなぞる。

その指先が触れるたび、花音はわずかに目を閉じ、かすかに息を漏らした。

「……ふ……っ」

ソファに触れる膝の感覚も曖昧になるほど、花音の意識は匠の温度に包まれていく。

唇が、角度を変えて深く重なり、やわらかく押し込まれる。
その合間に、短い言葉ではない、熱を帯びた呼吸の交差がある。

長いキスが幾度も続いた。

まるで言葉の代わりに、相手の輪郭を確かめ合うように。
時間が静かに、けれど確かに流れていった。

やがて、花音の吐息が熱く震えるのを感じた匠が、ふっとその唇を離した。

名残惜しさを漂わせながら、ほんのわずかに距離を取る。

花音は目を開け、うるんだ瞳で匠を見上げた。
頬は上気し、少しだけ不満そうな、けれど甘えたような声で呟く。

「……意地悪」

匠は、片方の口角を上げて笑うと、わざと軽やかに言った。

「お預けだよ。君のプライドを守るために。……別に、俺はいいんだけどさ」

そして、そっと花音の耳元に顔を寄せて、低く囁いた。

「ここで、最後までしてもいいけど?」

一瞬、花音の体がぴくりと震えた。
そして次の瞬間、耳まで真っ赤になった顔で、声をひそめながら叱るように言った。

「……ばか。ダメに決まってるでしょ……!」

匠は「だよね」と笑ってから、花音の額に軽くキスを落とし、ゆっくりと立ち上がった。

「だから帰ろう。ほら、時間ギリギリになるよ」

「……うん」

そう言って花音も体を起こすと、そっと立ち上がった。
ふとタワーを見れば、ミルクが上段で目を細めながらまどろんでいる。

「ミルク、今日はありがとうね」

花音はそう言って、ミルクの真っ白な背を一なでし、静かに荷物をまとめ始めた。
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