眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
しばらくの間、ふたりは言葉もなく、ただ重なる鼓動を感じていた。
肌と肌が触れ合ったまま、互いの温度を確かめるように、そっと腕の中で息を整える。

「……すごかった」
花音がようやくこぼした声は、小さくて、でもどこか恥ずかしげで。
その頬には、まだ微かに火照りが残っていた。

匠はその声に優しく笑って、彼女の額にキスを落とす。

「うん。俺も……幸せだった」
短く答えるその声には、誤魔化しのない真っ直ぐな感情が滲んでいる。
それが胸の奥にじんわりと染みて、花音はそっと目を伏せた。

布団の中、ふたりの身体の間を流れるのは、静かで穏やかな空気。
さっきまでの熱を残しながらも、どこか安心した温もりに包まれていた。

匠の指が、花音の肩から腕をなぞり、指先で髪を梳く。
まるで壊れ物を扱うような優しさで。

「……ちゃんと、気持ちよかった? 痛くなかった?」
その問いに、花音は小さく頷く。
言葉よりも、その表情がすべてを物語っていた。

「なんか……夢みたい」
思わずこぼれた呟きに、匠はふっと微笑んで、彼女の腰を引き寄せた。

「これから、何度でも見せてあげるよ。夢じゃなくて、本物を」
囁く声が耳元で震えて、花音は思わずぎゅっと匠にしがみついた。

不安も、迷いも、今だけは何もいらない。
目の前にいる彼の腕の中が、いちばん安全で、心地よくて――
ふたりだけの静かな世界に、ただ、安堵の息が重なった。
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