眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
再びスマートフォンの発信ボタンを押しながら、花音は石段に座ったまま、じっと耳を澄ました。
コール音だけが、耳に刺さるように響いてくる。
何度かけても、出ない。
何度繰り返しても、同じ空虚な応答音。
そのとき、現場の空気を切り裂くように、新田の声が響いた。
「今も気温30度超えてるぞ!体調悪いやつは遠慮するな、パトカーで冷房に当たれ!自分だけじゃない、お互い見て活動しろ!」
新田の怒鳴り声が、警察官たちを再び引き締める中、花音の頭はぼんやりと霞がかっていた。
「……そっか、まだ30度あるんだ」
スマホを手にしたまま、もう数回、流れ作業のように発信ボタンを押す。
はあ……頭がガンガンする。
足に力が入らない。腕が重くて、スマホを持っているだけでも一苦労だった。
「またか……どうせまた倒れて、病院送りか、警察署の医務室か」
ぼやけた視界の中、スマホを膝の上に置き、花音はバッグの中を探り始める。
めちゃくちゃに突っ込んだ荷物の山。
ハンカチは見つかったが、くしゃくしゃに丸まっている。
ついでに、車のキーも探す。
少しでも冷房に当たろうと。だけど、なかなか見つからない。
「……あー、だるすぎ。寝転がりたい」
視線をふと、足元の砂利に落とす。
さすがに、そこで寝るわけにはいかない。
わかってはいる。
でも、そんなことを真剣に考えてしまう時点で、もう自分の判断力は相当落ちている。
「いっそ、この石段に……寝っ転がっちゃおうかな……」
そんな考えが一瞬脳裏をよぎる。
だけど、警察官たちの視線がある。
これ以上冷ややかな目で見られるわけにはいかない。
自分のせいで空気が乱れるのは、もう勘弁だった。
無線のやり取りが、耳に入ってくる。
顔を上げると、早瀬がこちらを見ていた。
無線機片手に、真剣な顔で何かを伝えている。
ふと、目が合った──気まずい。
花音は、すぐに視線を外し、またバッグの中を探るふりをした。
汗は止まらない。メイクもとっくに崩れて、泣きすぎて顔はむくみ、髪はボサボサ。
「……恋愛?心配するほどでもなかったね。最初から、そんなのあるわけなかったじゃん。私なんて……」
自嘲気味に笑って、手にしたハンカチで顔をそっと押さえる。
「せめて、あまりに見苦しいのは避けたいな……」
髪ゴムをほどき、手櫛で乱れた髪をかきあげ、またひとつに結い直す。
すでに汗で湿っている髪を指が通りにくい。
外見を整えたところで、この状況は何も変わらない。
でも、それでも整えずにはいられなかった。
まるで、崩れていく自分をつなぎ止めるために。
コール音だけが、耳に刺さるように響いてくる。
何度かけても、出ない。
何度繰り返しても、同じ空虚な応答音。
そのとき、現場の空気を切り裂くように、新田の声が響いた。
「今も気温30度超えてるぞ!体調悪いやつは遠慮するな、パトカーで冷房に当たれ!自分だけじゃない、お互い見て活動しろ!」
新田の怒鳴り声が、警察官たちを再び引き締める中、花音の頭はぼんやりと霞がかっていた。
「……そっか、まだ30度あるんだ」
スマホを手にしたまま、もう数回、流れ作業のように発信ボタンを押す。
はあ……頭がガンガンする。
足に力が入らない。腕が重くて、スマホを持っているだけでも一苦労だった。
「またか……どうせまた倒れて、病院送りか、警察署の医務室か」
ぼやけた視界の中、スマホを膝の上に置き、花音はバッグの中を探り始める。
めちゃくちゃに突っ込んだ荷物の山。
ハンカチは見つかったが、くしゃくしゃに丸まっている。
ついでに、車のキーも探す。
少しでも冷房に当たろうと。だけど、なかなか見つからない。
「……あー、だるすぎ。寝転がりたい」
視線をふと、足元の砂利に落とす。
さすがに、そこで寝るわけにはいかない。
わかってはいる。
でも、そんなことを真剣に考えてしまう時点で、もう自分の判断力は相当落ちている。
「いっそ、この石段に……寝っ転がっちゃおうかな……」
そんな考えが一瞬脳裏をよぎる。
だけど、警察官たちの視線がある。
これ以上冷ややかな目で見られるわけにはいかない。
自分のせいで空気が乱れるのは、もう勘弁だった。
無線のやり取りが、耳に入ってくる。
顔を上げると、早瀬がこちらを見ていた。
無線機片手に、真剣な顔で何かを伝えている。
ふと、目が合った──気まずい。
花音は、すぐに視線を外し、またバッグの中を探るふりをした。
汗は止まらない。メイクもとっくに崩れて、泣きすぎて顔はむくみ、髪はボサボサ。
「……恋愛?心配するほどでもなかったね。最初から、そんなのあるわけなかったじゃん。私なんて……」
自嘲気味に笑って、手にしたハンカチで顔をそっと押さえる。
「せめて、あまりに見苦しいのは避けたいな……」
髪ゴムをほどき、手櫛で乱れた髪をかきあげ、またひとつに結い直す。
すでに汗で湿っている髪を指が通りにくい。
外見を整えたところで、この状況は何も変わらない。
でも、それでも整えずにはいられなかった。
まるで、崩れていく自分をつなぎ止めるために。