眠れぬ夜は、優しすぎる刑事の腕の中で。
玄関のドアを閉めた瞬間、全身の力が抜けそうになった。
靴を脱ぐのも億劫で、しばらくその場に立ち尽くしていた。
それでも、「とにかくシャワーだけは」と、ねばつく肌を意識して足を動かす。
浴室のドアを開け、服を一枚ずつ脱いでいくたびに、自分の身体が驚くほど強張っていたことに気づく。
無意識に緊張していた筋肉が、衣服と一緒に力を失って床に落ちていくような感覚だった。
お湯を出し、足元にザーッと流れる温かい水に、じわじわと血が巡っていく。
「ああ、生きてるんだな」と、不思議と冷静にそう思った。
顔にシャワーを当てる。
頬に残っていた涙の跡と、わずかに生き残っていたファンデーションが流れていく。
何度も何度も、指の腹で優しくなぞる。
落ちる水音の中、不意に胸がいっぱいになった。
──結咲ちゃん、生きてた。
朝岡からの連絡。
重度の熱中症ではあったけれど、病院での処置が奏功し、命の危機は脱したという。
今は医療スタッフのもとで静かに眠っている。
あの子が、今日の暑さにもうさらされることはない。
その報せを聞いたときは、安心よりも現実感のなさが先に来て、すぐには涙も出なかった。
けれど今、こうして一人になって、静かにシャワーの音に包まれていると――やっと心の奥に染み込んでくる。
「あの子、助かったんだ」
ぽろり、と涙が一粒、顎を伝って浴槽に落ちた。
長い長い夜が、やっと終わった気がした。
タオルで体を拭きながら、ふと思い出す。
「涙にはストレスホルモンが含まれている。だから泣くと、脳のストレス値が下がる」
児相職員研修の教科書で、何度も見た言葉。
今日はその理屈に、全力で甘えようと思った。
今日はもう、何もしない。
思いきり泣いて、ちゃんと泣いて、
誰でもない、自分自身のままで――ただ過ごそう。
そう決めると、少しだけ呼吸が楽になった気がした。
靴を脱ぐのも億劫で、しばらくその場に立ち尽くしていた。
それでも、「とにかくシャワーだけは」と、ねばつく肌を意識して足を動かす。
浴室のドアを開け、服を一枚ずつ脱いでいくたびに、自分の身体が驚くほど強張っていたことに気づく。
無意識に緊張していた筋肉が、衣服と一緒に力を失って床に落ちていくような感覚だった。
お湯を出し、足元にザーッと流れる温かい水に、じわじわと血が巡っていく。
「ああ、生きてるんだな」と、不思議と冷静にそう思った。
顔にシャワーを当てる。
頬に残っていた涙の跡と、わずかに生き残っていたファンデーションが流れていく。
何度も何度も、指の腹で優しくなぞる。
落ちる水音の中、不意に胸がいっぱいになった。
──結咲ちゃん、生きてた。
朝岡からの連絡。
重度の熱中症ではあったけれど、病院での処置が奏功し、命の危機は脱したという。
今は医療スタッフのもとで静かに眠っている。
あの子が、今日の暑さにもうさらされることはない。
その報せを聞いたときは、安心よりも現実感のなさが先に来て、すぐには涙も出なかった。
けれど今、こうして一人になって、静かにシャワーの音に包まれていると――やっと心の奥に染み込んでくる。
「あの子、助かったんだ」
ぽろり、と涙が一粒、顎を伝って浴槽に落ちた。
長い長い夜が、やっと終わった気がした。
タオルで体を拭きながら、ふと思い出す。
「涙にはストレスホルモンが含まれている。だから泣くと、脳のストレス値が下がる」
児相職員研修の教科書で、何度も見た言葉。
今日はその理屈に、全力で甘えようと思った。
今日はもう、何もしない。
思いきり泣いて、ちゃんと泣いて、
誰でもない、自分自身のままで――ただ過ごそう。
そう決めると、少しだけ呼吸が楽になった気がした。