諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる


■1章 運命の出会い



 三月下旬。
 東京都内の桜が満開に色づき、花見日和を迎える頃――。
 国内外の要人や賓客を招いたフランス大使館主催のレセプションパーティーに、百川咲良(ももかわ さくら)は通訳係として参加していた。
 大勢のセレブ客で賑わう会場内の豪奢な雰囲気を見渡しつつ、その日スーツに身を包んでいた咲良は今日のタイムスケジュールを改めて確認する。
 咲良のすぐ側には着物姿の一人の女性がいた。彼女は有名な茶道家の藤田流の家元夫人、藤田千波(ふじもと ちなみ)だ。
 依頼主はフランス大使館となっているが、通訳を担当するゲスト客の詳細については数日前に連絡があり、事前にビデオ通話で挨拶と軽い打ち合わせは澄んでいる。そして、先ほど入口で受付を済ませたあと合流したところだ。
「百川さん、今日はよろしくお願いしますね」
「はい。藤田様、こちらこそよろしくお願いいたします」
(しっかり役目を果たさなくては……)
 咲良の勤め先である通訳会社ブレインワーズにフランス大使館の翻訳通訳官から仕事の依頼があったのは一ヶ月程前のまだ寒い時期だった、
 大使館主催の大規模なパーティーに、外部の通訳者が呼ばれることは珍しいと上司は言った。基本的には、外務省に勤めている外交官を呼び寄せたり専門の通訳官が担当したりすることが多いようだ。
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