諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
今回は日仏の企業間の数多のコラボレーション事業をはじめとするレセプションパーティーということだが、予定していたよりも招待客が多くなってしまったため、来客個人を担当する通訳の助っ人が必要なのだということだった。そこで多くの通訳者を抱える大手通訳会社のブレインワーズに白羽の矢が立ったというわけらしい。
大体こういった大きな案件は、ベテランの通訳が担当を任される。咲良は上司の会話に聞き耳を立てながら誰が担当するのだろうと屈指のベテラン通訳者たちを思い浮かべていた。
上司や先輩たちが羨ましい。いつか自分にもそういう大きな仕事が回ってくるように頑張りたい。もっと高みを目指さなくては……。
そんなふうに身を引き締めつつ、次の派遣先で使う資料を整理する仕事にとりかかっていると、上長が咲良のデスクの側にやってきた。
『百川さん。いいかな?』
『はい』
何か問題が起きたのでは、と構える咲良に上長は笑って、いやいやとかぶりを振った。
『フランス大使館パーティーの案件についてだが、君に頼むよ』
『え、私ですか?』
咲良は驚いて椅子から立ち上がってしまった。上長がやや引き気味の表情を浮かべている。咲良は一歩下がって、まずは話の成り行きを聞くことにした。
『君を通訳者に推薦したいという話だった。どうやら何かのイベントの際にお眼鏡に叶ったようだね』
それを聞いて、咲良はますます信じがたい気持ちになりつつも、見ていてくれる人がいたのだと嬉しくなった。だが、頬を紅潮させている咲良を前にし、上長はやや申し訳なさそうな顔をした。
『実は、話をもらったとき、他の通訳者を提案させてもらったんだよ』
『……では、代役ということでしょうか? 私に務まりますか?』
『ああ、いや。誤解しないでもらいたいのだが、会社としても君の実力は認めているんだよ。だが、かなり大規模なパーティーだからこそ、ここは経験豊富な通訳者がいいのではないかと考えたんだ。だが、先方が君がいいと言った。であれば、応じるほかにないだろう』
念を押すように上長が言う。
『……おっしゃることはわかりました。推薦してくださった方や弊社の名誉のためにも、私も精一杯務めて参ります』
上長の言いたいことを察して、咲良が決意表明をすると、上長はようやく荷を下ろすような顔をしていた。
『ああ。頼むよ。君には大いに期待しているからね』
大体こういった大きな案件は、ベテランの通訳が担当を任される。咲良は上司の会話に聞き耳を立てながら誰が担当するのだろうと屈指のベテラン通訳者たちを思い浮かべていた。
上司や先輩たちが羨ましい。いつか自分にもそういう大きな仕事が回ってくるように頑張りたい。もっと高みを目指さなくては……。
そんなふうに身を引き締めつつ、次の派遣先で使う資料を整理する仕事にとりかかっていると、上長が咲良のデスクの側にやってきた。
『百川さん。いいかな?』
『はい』
何か問題が起きたのでは、と構える咲良に上長は笑って、いやいやとかぶりを振った。
『フランス大使館パーティーの案件についてだが、君に頼むよ』
『え、私ですか?』
咲良は驚いて椅子から立ち上がってしまった。上長がやや引き気味の表情を浮かべている。咲良は一歩下がって、まずは話の成り行きを聞くことにした。
『君を通訳者に推薦したいという話だった。どうやら何かのイベントの際にお眼鏡に叶ったようだね』
それを聞いて、咲良はますます信じがたい気持ちになりつつも、見ていてくれる人がいたのだと嬉しくなった。だが、頬を紅潮させている咲良を前にし、上長はやや申し訳なさそうな顔をした。
『実は、話をもらったとき、他の通訳者を提案させてもらったんだよ』
『……では、代役ということでしょうか? 私に務まりますか?』
『ああ、いや。誤解しないでもらいたいのだが、会社としても君の実力は認めているんだよ。だが、かなり大規模なパーティーだからこそ、ここは経験豊富な通訳者がいいのではないかと考えたんだ。だが、先方が君がいいと言った。であれば、応じるほかにないだろう』
念を押すように上長が言う。
『……おっしゃることはわかりました。推薦してくださった方や弊社の名誉のためにも、私も精一杯務めて参ります』
上長の言いたいことを察して、咲良が決意表明をすると、上長はようやく荷を下ろすような顔をしていた。
『ああ。頼むよ。君には大いに期待しているからね』