諦めの悪い外交官パパは逃げ出しママへの愛が強すぎる
そうして咲良は大役を任されることになったのだった。
今日はその大使館主催のレセプションパーティーの当日。
咲良は華やかなゲストの邪魔にならないシックな黒のスーツを着てパーティーに臨んだ。
家元夫人が挨拶をする相手との間に入って、通訳を担当するのが咲良の主な仕事だ。
大使館の大広間に集まった客は皆、招待状に記載されていた指定のドレスコードに準じた衣装を身に纏い、それぞれ晴れやかな表情を浮かべている。係から配られたウエルカムワインを片手に、各々同伴者や会場で出会ったゲストと挨拶を交わしていた。
日本側の招待客だけでも政治家、伝統文化の家元、国際活動家、芸能人などの著名人をはじめ、大手航空会社などの制服を着た恰幅のいい人らの姿も見られた。フランス大使館側に呼ばれたフランス側のゲストには音楽家や美食家、それからワイナリー経営者などの姿も見られる。
今回のパーティーには述べ五百名くらいが参加しているらしい。時には千人を越えるパーティーもあるので、人数的には中規模クラスだが、来賓のレベルとしてはやはり大規模クラスといっていいだろう。咲良は事前に上長から預かった来賓リスト、PR事業にコラボ商品、演目などの情報を脳内に並べていた。
それから――フランス大使の挨拶が終わったあと、皆が一様に乾杯と声を上げると食事の時間がはじまった。歓談しながら好きに楽しめる立食式のパーティーだ。有名な交響楽団に所属している音楽隊の美しい演奏がのびやかに響き、しばしゆったりと和やかな時間が過ぎていった。
家元夫人は紅梅色の艶やかな着物に金をあしらった帯と鶯色の帯締めをまとい、欧風の会場に凛とした日本人らしい華やぎを添えていた。そんな家元夫人の側で通訳をしていた咲良の元に、ホワイトブロンドの髪の、くっきりとした目鼻立ちをした女性がいきなり現れ、ちょっと、と声をかけられた。
家元夫人への用事ではなく咲良に直接話があるらしい。彼女の襟元にはフランス側の官僚がつけているような精緻な薔薇のデザインのブローチが目に留まった。どうやら主催のフランス大使館側のゲストのようだ。
「さっきあなたに預けた本を返してくれないかしら」
女性に唐突にそう言われ、咲良は意表を突かれる。何故ならそのような記憶はなかった。咲良はずっと家元夫人の側について回っていたのだから。
今日はその大使館主催のレセプションパーティーの当日。
咲良は華やかなゲストの邪魔にならないシックな黒のスーツを着てパーティーに臨んだ。
家元夫人が挨拶をする相手との間に入って、通訳を担当するのが咲良の主な仕事だ。
大使館の大広間に集まった客は皆、招待状に記載されていた指定のドレスコードに準じた衣装を身に纏い、それぞれ晴れやかな表情を浮かべている。係から配られたウエルカムワインを片手に、各々同伴者や会場で出会ったゲストと挨拶を交わしていた。
日本側の招待客だけでも政治家、伝統文化の家元、国際活動家、芸能人などの著名人をはじめ、大手航空会社などの制服を着た恰幅のいい人らの姿も見られた。フランス大使館側に呼ばれたフランス側のゲストには音楽家や美食家、それからワイナリー経営者などの姿も見られる。
今回のパーティーには述べ五百名くらいが参加しているらしい。時には千人を越えるパーティーもあるので、人数的には中規模クラスだが、来賓のレベルとしてはやはり大規模クラスといっていいだろう。咲良は事前に上長から預かった来賓リスト、PR事業にコラボ商品、演目などの情報を脳内に並べていた。
それから――フランス大使の挨拶が終わったあと、皆が一様に乾杯と声を上げると食事の時間がはじまった。歓談しながら好きに楽しめる立食式のパーティーだ。有名な交響楽団に所属している音楽隊の美しい演奏がのびやかに響き、しばしゆったりと和やかな時間が過ぎていった。
家元夫人は紅梅色の艶やかな着物に金をあしらった帯と鶯色の帯締めをまとい、欧風の会場に凛とした日本人らしい華やぎを添えていた。そんな家元夫人の側で通訳をしていた咲良の元に、ホワイトブロンドの髪の、くっきりとした目鼻立ちをした女性がいきなり現れ、ちょっと、と声をかけられた。
家元夫人への用事ではなく咲良に直接話があるらしい。彼女の襟元にはフランス側の官僚がつけているような精緻な薔薇のデザインのブローチが目に留まった。どうやら主催のフランス大使館側のゲストのようだ。
「さっきあなたに預けた本を返してくれないかしら」
女性に唐突にそう言われ、咲良は意表を突かれる。何故ならそのような記憶はなかった。咲良はずっと家元夫人の側について回っていたのだから。