報復を最愛の君と

パン屋さんで

パン屋に入ると、より一層いい匂いがした。
すごく美味しそうなパンが並んでるから、ワクワクしちゃう。
「見たことないパンもあるな」
「いらっしゃい!まあまあ、ずいぶんとおきれいなお姉さんふたりとお兄さんだね〜」
店の奥から店員らしきおばさんが出てきた。
ずいぶんと言い回しが上手い。
「ありがとうございます。あの、このパンってなんですか?」
私とは違って、ソラは冷静な感じで受け流していた。
やっぱり慣れてるんだなぁと。
ちなみに、ソラが指さしたのは一見普通のパン。
でも、私の国では見たことのない不思議なもの。
「それかい?それはねー、フロス国の穀物を使った限定のやつだよ!結構人気だから、この時間まで残ってるのは珍しいんだ」
確かに「大人気!」という(ふだ)がある。
だってとても美味しそうだもの。
「ソラ、私これ買いたい!」
私はソラのすそをひっぱって笑顔で言った。
それから、少し呆れたようにため息をついてから私の頭をなでた。
「俺が買ってあげるよ。クラもいる?」
「…いる」
「分かった。あの、これ5つください」
「あいよー!」
なんだかクラはソラを警戒している様子。
なんでだろう?
そうして、おばちゃんが袋に入れたパンをわたしてくれた。
「はいよ。お代は10ドルね」
「わかりました」
ひとつ2ドルって結構安い。
宮殿で買っていたパンは確かひとつで15ドルくらいしたから。
ソラがお金をわたすと、おばちゃんは驚いたように目を見開いた。
「これって人間主義のお金?初めて見たわ!」
「あっ…」
まずいと思った。
人間主義国のイコロ国とカント国は金銭に特殊(とくしゅ)なマークがついてるの。
だから、すぐに分かってしまう。
そして人間主義の人は他国からは嫌われる。
「すみません!!気分を害したなら、私達すぐに…」
「いいのよ」
彼女の大きな声が響いた。
「それは古臭い考えよ!あなた達優しいから、別に平気よ。それと、そうねぇ。あなた達に伝えておこうかしら」
なんだか雰囲気が変わった。
すごく真剣な顔をするから、緊張してしまう。
「あなた達は旅人なのかしら?」
「いいえ。わけあって少し遠回りをしてカント国に向かっているんです。この後はベルス国に行くんです」
「まあ!あの国には人間主義の子達は行かない方がいいよ」
とたんにおばちゃんの顔が険しくなった。
そして、ピシッと右手の人差し指を立てながら言った。
「あそこは人間は受け入れてくれないし、なにより国民が気味悪いんだよ。神を信仰するだとかなんだとか。相当な理由がない限り、行くことはおすすめしないね」
その後私達は何もいうことができず、スイとルナがいるところへ向かった。
きっとベルス国は評判がよくないのだろう。
でも、クラのためにもベルス国に行きたい。
どうするのが正解?
「ヒメア、理由がなんであろうと俺達は行かなきゃいけない。復讐を果たすために」
ソラはとても真剣な顔で言った。
そうだ、私達は復讐を果たすために来たんだ。
ここまで来てひきさがるわけにはいかない。
私はそう決意したのだった。
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