報復を最愛の君と

その夜、私は寝床を抜け出してセレストの部屋に向かっていた。
宴が終わる頃——。
『夜にボクの寝床においでよ。話をしよう』
まるで、私の心を読んだみたいだった。
そういえば、初めて会った時もそんな感じだったな。
そんなことを考え、私は少し警戒しながらセレストの部屋のドアをノックした。
コンコン。
「ヒメアだよ。入ってもいいかな?」
「どうぞ」
すぐに返事がきたので、私はドアを開けて部屋に入った。
部屋に入ると、セレストは初めて会った時と同じように窓のところに立っていた。
天竜だから風が好きなのかな?
そう思いながら、私はセレストに近づいた。
「ああ、ごめん。そこにイスに座りなよ。お茶でも出すね」
そう言ってキッチンの方へ行った。
私はやることもなく、おとなしくイスに座った。
その間に部屋を見回してみる。
なんだか寂しい部屋。
初めに思ったのは、それだった。
ほとんど飾りもなく最低限の家具しか置かれていないこの部屋は、大きいせいもあるのか寂しく見えて仕方なかった。
そして、セレストがお茶入りのカップをふたつ持って戻ってきた。
それを私の前に丁寧に置く。
「はい、どうぞ。紅茶は嫌いじゃないかな?」
「うん。大丈夫だよ、ありがとう」
そう言って、私はひとくち紅茶を飲んだ。
少し苦い紅茶の味がとても好きなんだ。
そしてセレストが言った。
「ヒメア、単刀直入に聞かせてもらうけど君たちがここに来たのはなぜ?ボクもそれがわからないんだよね。民をおびやかす存在じゃないのはわかってるんだけど…」
私は少し考えてからこう言った。
「私の質問に答えてくれたら、教えてあげる」
私だけ素直に質問に答えるのはよくないと、直感で思った。
そして、セレストは少しの間黙り込む。
それから笑顔でうなずいた。
「うん、いいよ。答えてあげる」
「ありがとう。じゃあ、失礼かもだけど質問するね。セレスト、あなたは初代人魚を殺したの?」
セレストは笑顔を崩さず、食いつくように言った。
「なぜ、そんな質問を?」
その笑顔はさっきと違って、深い闇を感じさせた。
セレストはやっぱり何かを隠してる。
それはきっと、私達の想像を超える何か大きなもの——。
「聞いているのはこっちだよ。質問を質問で返さないで」
「…わかった」
それから、セレストはとんでもない発言をした。
「たしかにボクとセランはカノンを永久の眠りにつかせたよ。でも、間違ったことはなにもしてない。カノンは死んで当然だったんだ」
「どう…して」
私は震えが止まらなかった。
——恐ろしい人。
いや、セレストはそんな言葉じゃ表せない。
闇そのものだ。
「どうしてって、わからないの?カノンは理不尽に能力者を殺す人間も生かしたんだ。ありえないよ!カノンは何にもわかっちゃいない!人間共は最低で最悪な生き物で、この世に存在してはいけないんだ。なぜ守る必要がある?ボク達は神なんだよ?害悪な生き物は殺し、自然に戻すんだ。それが普通だよ。ヒメアも同じ人間を恨んでるんだろ?ならわかるはずだよ」
たしかに私は人間が嫌い。
でも、使用人達とは違う人間もいた。
ソラやスイは私を呪いとして扱わず、“ヒメア”として私を見てくれた。
私達は神なんかじゃないし、呪いでもない。
「違う、間違ってるよそんなの…」
その時、セレストの表情が崩れた。
< 29 / 30 >

この作品をシェア

pagetop