クールなパイロットは初心な新妻を身籠らせたい
「ありがとう、必ず幸せにする。二人で幸せになろう」

 私は涙と鼻水のせいで息ができなくて、ただひたすら頷くだけだったけれど、こうして高層階の夜景を見るたびに、きっと今日のことを思い出すだろう。

 千早さんが気遣って、ベッドサイドにあるティッシュを取ってくれたので、私はそれらを拭いとると、改めてお互いの顔を見つめ合う。

「恥ずかしいから見ないでください。化粧が取れてる……」

「これからはいろんな梢子の顔を見るんだから、少しずつ慣れていって」

 千早さんはそう言うと、箱を開けて、中から指輪を取り出した。
 部屋の間接照明に照らされて、ダイヤモンドがキラキラと光っている。

 都会の夜景には敵わないけれど、遠くに来島海峡大橋が見えるこの部屋からは、橋の塔頂部分と塔の真ん中あたりの高さから、光が確認できる。頭頂部の光は、ピカピカとフラッシュのように点滅している。
 航空法で定められている航空障害灯というものらしく、『地表又は水面から六十メートル以上の高さの物件に設置しなければならない』のだそうだ。

 上空を通過する飛行機などに橋の存在を示し注意喚起することで航行の安全を守っているのだと、昼間千早さんから教わった。
 そのフラッシュにも負けない輝きに、私は目を奪われる。

 千早さんが私の左手を取って薬指にそっと指輪をはめると、金属特有のひんやりとした感覚は、すぐに肌の温度に馴染んだ。

「まずは、最高に色っぽい梢子が見たい」

 そう言って千早さんは私を抱きかかえると、ベッドの上にそっと下ろされる。
「梢子、愛してる」

 耳元で囁く声に、私は何度も頷いた。

「私も、千早さんのことを愛してます……」

 深い口づけから、身体と心が繋がっていく。
 二人で甘く蕩ける甘美な時間がこれからずっと続いていく。千早さんは優しく、時に激しく私の身体を求め、私もそれに応えようと必死でしがみついた。
 
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