【12/31引き下げ】クールなパイロットは初心な新妻を身籠らせたい
「はい。職場が家の近くにあるので、こっちに来る用事がない限り、あまり母の店にも顔は出してないですね」

 藤川さんは、私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるので、食後にお腹が苦しくなることはない。

「あ! そうだ、忘れるところだった」

 私が突然声をあげたことで、藤川さんがびっくりしている。

 私は手に持っていたバッグの中から、店で購入した菓子箱の入った紙袋を取り出すと、それを手渡した。

「この前、甘いものがお好きだって話をされていましたよね? 私が勤務しているお店の焼き菓子なんです。疲れている時にでも食べてください」

「え……、覚えていてくれたんだ?」

「はい。お好みのお菓子があるといいんですけど……」

 商店街の中央で立ち止まってお菓子を手渡していると、通行人の邪魔になる。それに気付いたのか、藤川さんがさりげなく私を通路の隅へと誘導した。

「ありがとう。めっちゃ嬉しい……」

 藤川さんがお菓子を受け取ってくれたので、私も一安心だ。

「この前も思ったんだけど、梢子さん、とっても甘い匂いがする」

 藤川さんの唐突な発言に、思い当たる節はある。
< 55 / 234 >

この作品をシェア

pagetop