蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
蓮sideー心がざわつく夜ー
ーー
静かな夜だった。
街のネオンが
ゆらゆらと揺れてる。
煙草の先端が
オレンジ色に光って
ゆっくりと消えていく。
吸い込んだ煙を吐き出しながら
ふと、視界の隅に
あいつの顔が浮かんだ。
……美咲。
あの日
偶然絡まれてた女。
それが全部の始まりだった。
助けたのは
たまたま通りがかっただけだったはずなのに
それから
何度も何度も――
気づけば
会ってた。
いや
“会ってた”っていうか
“見かけると
気になって目で追ってた”
そういうのが
正しいんだろうな。
別に…
可愛いとか、そういうんじゃねぇ。
ただ
目が合うたびに
やけに胸の奥が
モヤモヤっとしてくるだけだ。
放っときゃいいって
何度も思ったのに
ヒールが折れて動けなくなってた時も
雨でびしょ濡れになってた時も
結局、俺は
気づけば体が勝手に動いて
手を出して助けてた。
「……はぁ」
煙草を地面に落とし
靴で消す。
「らしくねぇな、俺…」
呟いた声が
やけに夜に響く。
いつもなら
人がどうなろうが関係ねぇって
切り捨ててきたはずなのに
美咲だけは
なんでか
放っとけねぇ。
“知り合いだから”
“偶然だから”
そう自分に言い聞かせてきたけど
それがもう
言い訳にしか聞こえなくなってる。
まだ
“好き”とか
そんな軽々しい言葉じゃねぇ。
でも
確実に
何かが俺の中で変わり始めてる。
……あいつが笑う顔も
怯えた顔も
涙ぐむ顔も
全部が
いちいち胸に残るようになってきた。
「……チッ」
また煙草に火をつけた。
くすぶる火が
まるで自分のこの気持ちみたいで
余計に腹立たしくなる。
今のままじゃ
いつか絶対に巻き込む。
この世界にいる限り
無傷じゃ済まねぇ。
分かってる。
分かってんのに――
“それでも目が離せなくなってる”
「……は」
小さく鼻で笑った。
「マジで、面倒くせぇな……」
誰に向けてでもなく
ぽつりと吐き出す。
その声は
少しだけ苦く滲んでいた。
ーー