蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
第6章『距離が近づく夜』
ーー
あの日から――
私たちは
少しずつ
でも確かに
距離を近づけていった。
もう”偶然”って呼べないくらい
よく会うようになった。
蓮はいつもと変わらない無表情で
余計なことはほとんど話さない。
だけど
私が話しかけると
ちゃんと返事を返してくれるようになった。
たったそれだけのことなのに
胸が温かくなる。
ーー
放課後のコンビニの前で
ばったり出会った日。
「……帰り?」
蓮の方から
声をかけてきた。
今までなら
ありえなかったこと。
「…うん」
「送る」
突然だった。
でも
断る理由なんて、もう無かった。
「…うん…ありがとう」
バイクの後ろに乗りながら
背中越しに感じる蓮の体温が
心臓の奥を
じんわりと熱くさせた。
時々、信号待ちのたびに
少しだけ振り返る横顔。
その横顔が
綺麗で
優しくて
…なんだか
見ているだけで、泣きそうになる。
ーー
家の前に着いても
すぐにはバイクから降りられなくて
ほんの少しの沈黙が
ふたりの間に流れた。
「……ありがとう、送ってくれて」
「……別に」
短い返事。
でも
口調はどこか柔らかかった。
私は
勇気を出して、もう一歩踏み込んだ。
「…蓮くんは、さ」
「どうして、私のこと助けてくれるの?」
聞きたかった言葉を
やっと口に出せた。
蓮は少しだけ目を伏せて
しばらく何も言わなかった。
「……さあな」
静かに
そう呟いただけだった。
でも、その横顔は
どこか照れくさそうに見えた。
ーー
それから数日後の休日。
「少しだけ時間ある」
蓮が珍しく
自分から誘ってくれた。
高台の夜景が綺麗に見える場所。
「……初めて来た」
夜の風が少し冷たかったけど
蓮の隣にいるだけで
不思議と寒さは感じなかった。
「……ここ、たまに来る」
「一人で?」
「……ああ」
蓮はポケットに手を突っ込んだまま
ぼんやりと街の灯りを眺めていた。
沈黙が続く。
だけど
その沈黙すら心地良くて
私の鼓動だけが
ドクンドクンとうるさく響いていた。
「……怖くないの?」
ぽつりと
私が聞いた。
「この世界にいるの、怖くない?」
蓮はしばらく黙ったあと
低い声で答えた。
「怖くねぇわけねぇだろ」
「……でも」
「今さら逃げられる場所もねぇ」
その言葉が
胸に刺さった。
「……でもさ」
「私が言うのも変だけど――」
「いつかは…その世界から、抜けられたらいいね」
蓮は驚いた顔を少しだけ見せた。
そして
小さく笑った気がした。
ほんの一瞬だけ
柔らかい笑み。
「……簡単じゃねぇけどな」
その笑顔に
私は胸がぎゅっとなって
ふいに
視線を逸らしてしまった。
蓮の隣にいると
怖くて
安心して
苦しくて
嬉しくて
全部が
ぐちゃぐちゃになる。
それでも――
“もっと、この人のことが知りたい”
そう思い始めてる自分に
気づいてしまっていた。
ーー