『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(11)
どれくらい時間が経っただろか、
ふっと体が軽くなり、強いGを感じなくなった。
目を開けると、ディスプレーの表示は『音速モード』に変わっていた。
それに慣れてきた時、更に体が軽くなった。
表示は出ていないが、『低速モード』に切り替わったのは間違いないようだった。
終点にかなり近づいているのだろう。
「どうなっているのかしら……」
目を開けた彼女が怯えたような声を出した。
世界は終末直前まで行っているのだろうか?
着いた途端、この世は消滅するのだろうか?
そんな怯えが声だけでなく彼女の体を震わせているように感じた。
*
少しして、音もなく『2080年7月7日午前』という表示が表れた。
すると同時に、雷鳴が轟き、目の前のディスプレーに暴風雨が映し出された。
荒れ狂う風が大樹を揺らせていた。
葉や枝は弄ばれ、今にもちぎれて飛んでいきそうになっていた。
いきなり閃光が走った。
それが息の根を止めるように大樹を貫くと、更に追い打ちをかけるように竜巻が襲いかかった。
もはや大樹に抵抗する力は残っていなかった。
根元から折れて地面に叩きつけられると、断末魔が空気を切り裂いた。
それは、千年の命が無残にも奪われた瞬間だった。
しかし、それだけでは終わらなかった。
目の前が真っ暗になり、意識が消えた。
「今仁さん!」
空中に浮遊するわたしの魂が彼女の声を聞いた。
彼女は真っ青になっていたが、異変が起こったのはわたしだけではなかった。
「アッ!」
悲鳴を上げた瞬間、彼女の首がガクッと折れた。
ディスプレーには目を閉じて息をしていない老いた女性の姿が写っていた。