『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(12)


「目を開けてください」

 魂の抜けかけた彼女の額にロボコンが針を突き刺していた。
 それは、彼女の魂が自らの体から遊離する直前のことだった。
 目を開けた彼女にロボコンが告げた。

「今なら戻すことができます」

 そして、
 100歳を迎えたその日に老衰で亡くなったこと、
 1回だけなら死ぬ直前に戻すことができること、
 を説明し、ロボコンが窓を指差した。

「あの電車で帰ることができます」

 窓の外には〈過去行きの電車〉が停車していた。
 すると彼女は「すぐに」と言いかけたが、ハッとしたように口に手をやった。
 隣に座っているわたしの目が開いていないことに気づいたからだ。

「今仁さんの目も開かせて下さい」

 しかし、ロボコンは頷かなかった。

「それはできません」

「何故?」

 彼女は食い下がったが、「できないものはできないのです」と悲しそうな声を出した。
 それでも彼女は救いを求めるような目で訴えたが、ロボコンは取り合おうとしなかった。

「時間がありません。お一人で〈過去行きの電車〉に乗るか、それとも、このままここに残るか、今すぐ決めてください」

 強い口調で促されたが、彼女は返事をしなかった。
 というより決められないのだろう。首を振るばかりだった。
 それでも、ロボコンは(なさけ)を殺すようにカウントダウンを突き付けた。

「スリー、ツー、ワン、」

 カウントダウンがゼロになった瞬間、わたしの魂が隣の電車に移動した。
 そして、ほぼ同時に電車が動き出した。
 先頭車両の上部にあるディスプレーには『過去行き』と表示されていた。
 車内のディスプレーにも同じ文字が並んでいた。

 スピードが上がり、『音速モード』になった。
 更にスピードが上がり、『光速モード』に突入した。
 尋常ではないスピードで目的地に向かっていた。

 先頭車両と車内のディスプレー表示が同時に変わった。
 断固として主張するような黒い太文字で『2020年駅行き』と表示されていた。

 連結ドアが開き、ロボコンが入ってきた。
 そして、乗客を確認して、また連結ドアの先に消えた。
 しかし、その後姿を見送る乗客は誰もいなかった。

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