『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(14)


 時は進んでいた。

 19:00 19:01 19:02 ………………、20:18 20:19 20:20。

 また時が止まると、シートの前のディスプレーに生まれたばかりの男の赤ちゃんが映し出された。
 その瞬間、浮遊する魂がわたしの体に戻った。
 しかし、元徳島絵美のように赤ちゃんには変化しなかった。
 その時、連結ドアが開いて、美しい容姿をした車掌が入ってきた。

「お帰りなさいませ、今仁礼恩様」

 (うやうや)しく頭を下げた。
 その途端、封印されていたすべての記憶が蘇ってきた。

「ただいま、クレオニ」

 クレオパトラによく似ていることから〈クレオ似〉をもじって名づけられた万能ロボットに向かって、わたしは軽く頷いた。

「過去への旅はいかがだったですか?」

「ちょっと疲れたけど楽しかったよ」

「問題はなかったですか?」

「ああ、仕事や住まいや生活に必要な諸々のことを君がすべて準備してくれていたので助かったよ」

「それはよかったです。ところで、前世には出会えましたか?」

「おかげさまで。これも君のおかげだね」

「とんでもございません。でもお役に立ててよかったです。ところで、天照美輝様とはお話しになられますか?」 

 わたしが大きく頷くと、クレオニがアームを伸ばして赤ちゃんのおでこに小型のプローベを当てた。
 その途端、赤ちゃんの顔が大人びてきた。

「お話しできるのは5分間だけです。それを過ぎると生後初日の赤ちゃんに戻ります」

 わたしがまた大きく頷くと、「20秒後に出発いたします」と告げて、クレオニが連結ドアの先に消えた。
 すると、可愛い声が耳に届いた。

「あなたは誰?」

 徳島絵美の声によく似た天照美輝の声だった。

「はじめまして、今仁礼恩です」

「えっ!」 

 彼女は絶句した。
 そして、荒い息を吐いた。
 凄く動揺しているようで、小さな体をブルブルと震わせていた。

 わたしは彼女を落ち着かせるために両手で抱えて優しく抱き締めた。
 そして頭を撫でたあと、彼女の左の掌にわたしの右の人差し指を当てた。
 すると、ちっちゃくて可愛いくてマシュマロのような5本の指でぎゅっと握られた。
 わたしは脳髄が痺れるほどの幸福感に襲われ、愛しくてたまらなくなって頬に口づけをしようとした。
 しかし、僅かな衝撃がそれを止めさせた。
 電車が動き出していた。
 ドア上のディスプレーを見上げると、『出発』という文字が表示されていた。
 二人の新たな旅路が始まったのだ。

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