『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(2)
早めに現場に行って、監督が到着するのを待った。
高松さんが急に辞めることになったことを伝えなければならない。
道々考えたが、もっともらしい言い訳は思いつかなかった。
だから、仕方なく高松さんの案に従った。
既に亡くなっているご両親にもう一度死んでいただくのだ。
気は進まなかったが、それ以外に選択肢がないので、どうしようもない。
顔も知らないご両親に手を合わせて、〈ごめんなさい〉と呟いて許しを請うた。
そのことを監督に伝えると、眉間に皺が寄った。
松山さんの件もあったから、胡散臭いと思われたに違いない。
大きく頭を振っているうちに眉が上がってきた。
それが我慢ならないというような顔になって、「急に辞められたら人の手配ができないだろう!」と怒声を浴びせられた。
わたしはただ俯いて彼の怒りが収まるのを待った。
それ以外に為すことは何も無かった。
「いい加減にしろ!」という捨て台詞が頭の上を通過するまで自分の靴を見続けていた。
そんな様子を見ていたのだろう、松山さんが心配そうに声をかけてきた。
その気持ちは嬉しかったが、「なんでもないですから」と小声で返しただけで持ち場についた。
その日の休み時間は一人で過ごした。
松山さんのエッチ話に付き合う気分ではなかったし、一緒にいると高松さんのことを話してしまいそうなので、意識的に距離を置きたかった。
その後も松山さんから誘いが続いたが、適当なことを言ってやり過ごして朝まで淡々と仕事をこなして家に帰った。