『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(11)→?
「危なかった……」
今度は松山さんが荒い息を吐いていた。『ロック・アンド・ロール・ミュージック』は2分半ほどで終わる短い曲なので、ジャンという音が鳴った時に気づいても手遅れになる可能性があったのだ。
ロボコンと叫ぶのが1秒遅れたらやばかったかもしれないと思うと、突然、膝が震え出した。
そして、〈次はもっとちゃんと気をつけましょうね〉と偉そうに言った自分が恥ずかしくなった。
「次はもっとちゃんと気をつけます」
消え入るような声で松山さんに詫びた。
「でも良かったよな。まさかビートルズの来日公演を見られるなんてさ」
この2か月後にライヴ活動を止めてしまったということを松山さんから聞いて、なんて貴重な公演を見ることができたのかと、改めてその有難みが体の中に満ちてくるのを感じた。
*
「さあ、次はどこだ?」
松山さんは早くも次のコンサートに思いを馳せているようだった。
わたしより10歳も年上なのに、そのエネルギーはわたしの何倍もあるようだった。
しかも内部からどんどん湧き出しているようで、ロックに対する情熱の熱さに圧倒されるばかりだった。
「ポポポパポピポパ」
突然、音が鳴った。
見ると、ドア上のディスプレーに何かが表示されていた。
それは駅名ではなかった。
『折り返し』と表示されていた。
もうこれ以上過去には行かないようだ。
よかった……、
思わず安堵の息が漏れた。
すると、急に電車が浮き上がった。
そして、隣の線路へ水平移動して、ゆっくりと回転を始めた。
180度回転すると、線路の上に降りた。
引き返す支度ができたようだ。
わたしはドア上のディスプレーが変わるのを固唾を飲んで見守った。
変わった。
『未来行き』
よし!
わたしは思わず拳を握り締めた。
しかし、具体的な行先はまだ表示されていなかった。
それで尚も見続けていると、いきなり電車が動き出した。
まさかこのまま真っすぐ現実に戻ってしまうことはないはずだが、それでも一抹の不安を拭い去ることはできなかった。
「これで2020年に戻ったら死んじゃうぞ」
松山さんは今にも泣き出しそうだった。
レッド・ツェッペリンのライヴを見ないまま戻るなんてあり得ないことなのだ。
「頼む!」
ディスプレーに向かっていきなり手を合わせた。
「レッド・ツェッペリンに会わせてくれ!」
目を瞑って必死の形相で手を合わせたので、すぐに追随した。
「松山さんの願いを叶えてください」
心の中で祈念した。