『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】

(3)


 店を出て南口のタクシー乗り場に向かうと、ずらりと並んだ客待ちのタクシーがあくびをしていた。
 どれも(あご)が外れそうなくらいの大きなあくびだった。
 ボディーに書かれた社名が〈暇〉という文字に変わって見えた。

 小型に乗るつもりだったが、行く先がそんなに遠いわけではないし、こんな素敵な女性に窮屈な思いをさせるわけにはいかないので、足元の広い中型にした。

 彼女を奥の席に通して自分はその横に座った。
 膝を揃えて座る彼女の足がドア側にすらりと伸びるのを見て、目を奪われた。
 それに、横から見る彼女の胸の膨らみがスリムな体に似合わない大きさに見えて、ハッと目を見開いてしまった。
 それでも、すぐに視線を前方に向けて運転手に住所を告げた。
 彼は「わかりました」と頷いて、ナビに住所を入力した。
 15分ほどで着くということだった。

 道中は無言だった。
 スタバでわたしが説明したことを頭の中で反芻しているのだろうか? 
 遠くを見つめるような目になっていた。

 対して、わたしの頭の中は不安が渦巻いていた。
 鍵がどこに隠してあるのかわからないからだ。
 ドラマなどでよく出てくるのは『郵便受けの中』『牛乳箱の中』『植木鉢の下』『玄関マットの下』『犬小屋の中』などだが、そんなところに置いていたら空き巣の餌食になるのは明白だ。
 高松さんがそんなことをするわけはない。

 ではどこだ? 
 エアコンの室外機の裏か? 
 それとも水道なんかのメーターボックスの中か? 

 いや、そこも空き巣が簡単に探し当てる。

 となると……、

 考えていたら目的地に到着した。
 慌てて料金を払おうとしたが、彼女に先を越されてしまった。
 自分が払うと言い張ったが、「スタバでご馳走になったのでタクシー代は払わせて下さい」と押し切られた。

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