『夢列車の旅人』 ~過去へ、未来へ、時空を超えて~ 【新編集版】
(11)
「夜遅くにすみません。お休み中ではなかったですか?」
わたしはスマホを耳に当てたまま頷いた。
「今仁さん?」
心配するような声だった。
「掛け直しましょうか?」
わたしは首を横に振ったが、それでは相手に何も通じていないことに気づいて、声を絞り出した。
「大丈夫です。ちょっと嫌な夢を見たばかりなので……」
さっき見た悪夢のことを一部始終話した。
笑われるかと思ったが、真剣な声が返ってきた。
「それって、警告かもしれませんね」
警告?
「郵便受けの前で長いことガチャガチャやるのは危ないという警告のような気がします」
「なるほど。そうかもしれませんね。そんなことをしたら大変な目に遭うという警告かもしれないですね。すべての組み合わせを試すという無謀なことは止めた方がいいですね」
「そう思います。でも……」
ん?
「惜しかったですね」
えっ?
「4と1まで試されたんですよね」
「そうですけど」
「もし私の勘が当たっていたら正解にかなり近づいていたと思いますよ」
ん?
どういうこと?
確かめようとしたが、その前に彼女の声が耳に届いた。
「来週月曜日の休館日にそちらへ行きたいのですが、お付き合いいただけますか?」
「それって番号がわかったということですか?」
しかし返ってきたのは、直接の返事ではなかった。
「もしお休みを取っていただければ嬉しいのですが……」
なんで番号を教えてくれないのかさっぱりわからなかったが、これ以上追及するのは大人げないと頭を切り替えた。
「わかりました。月曜日と火曜日の二日間休むことにします」
「えっ? 二日ですか?」
「そうです。もし鍵が見つかって高松さんの部屋に入ることができたら、荷物の整理や後始末など色々なことをやることになるでしょうから」
今度は沈黙が返ってきた。
10秒近くそれが続いた。
「……、そうですね……、確かに……。わかりました、私も火曜日休むことにします。新幹線はこの前と同じ時刻でよろしいですか? それとも少し早くしましょうか」
「そうですね、一便早い〈ひかり〉にしてください」
「わかりました。では来週月曜日に」
返事をする前に通話が切れた。
慌てて切ったような感じだった。
しばらく無言のスマホを見つめていたが、右横のボタンを押してから、ちゃぶ台の上に置いた。
時刻は今日から明日へ移ろうとしていた。