『裏切りパイロットは秘めた激情愛をママと息子に解き放つ』番外編〜嘘つきパイロットは、今夜はママだけに愛を注ぐ〜
「遼一、あの……話があるんだけど」
 そう切り出したのは、樹を寝かしつけた遼一がリビングのソファで新聞を読んでいる時だった。
 和葉も風呂に入り、パジャマに着替えてお互いにもう寝るばかり、というタイミングだ。
「どうかした?」
 遼一が眉を寄せて新聞を置いた。
 隣に座り口を開く。
「あのね、さっきの話なんだけど」
「さっきの?」
「遼一ってときどき私のこと可愛いって言って頭を撫でるでしょう? あれ……やめてほしいの。少なくとも樹の前では」
 意外な申し出だったのか、遼一が和葉を見つめたまま沈黙する。
 その彼に、和葉は夕方保育士から聞いたことを話した。
 そして自分の推測を付け加える。
 おそらく樹は、遼一が和葉にしていることを見ていて真似をしているのだ。
「……先生は勘違いしてくださってるけど、なにかの拍子にパパがママにしてるってバレちゃうかも。そしたらよくないでしょ? だから」
 すると遼一は瞬きを二、三回。
 そしてぷっと噴き出した。
「なんだよ、深刻な顔で言うから何事かと思ったら」
 笑い続ける遼一に、和葉は頬を膨らませた。
「深刻な話だよ。恥ずかしいじゃない。あの保育園はNANAの関係者ばかりだし……」
 単純に恥ずかしいのもそうだけど、和葉は、遼一の立場が悪くならないかを心配してるのだ。
「べつにいいよ、バレても。暴言吐いてるとかの話じゃないんだし」
「でも……! 遼一これからはパイロットを指導する立場にもなるでしょう? それなのに」
「関係ないよ、そんなの。そんなこと気にしてたのか、可愛いなぁ和葉は」
 また頭をくしゃくしゃとされて和葉は彼を睨んだ。
「私だって恥ずかしいよ、お迎えの回数は私の方が多いでしょう?」
 遼一が手を止めて首を傾げた。
「まぁ、それは……。でもだからやめろというのは、それは俺に対する思いやりがないと思わないか?」
「え、思いやり?」
「ああ、和葉を思い切り好きな時に可愛がれない生活なんてストレスが溜まるだろうな。フライトに影響するかも」
「え、そんなに……?」
「ああ、そんなにだ」
 そう言って遼一は、和葉の腰と瀬名に腕を回す。
 あっという間に和葉の世界は反転し、ソファの上に寝かされた。
 遼一が意味深な笑みを浮かべて和葉を見下ろしている。
「でもそうだな……。和葉が、ふたりだけの時に今までの倍可愛がらせてくれるなら、樹の前では多少抑えられるかもしれない。そしたらプラマイゼロでストレスは溜まらないかも」
「……本当に?」
 尋ねると、彼はにっこりと微笑んだ。
 その視線がゆっくりと降りてきて、ふたりいつもより深いキスを交わした。
「和葉、愛してるよ。今夜は可愛いところをたくさん見せてくれる?」
 
 ……その夜の遼一は、いつもの何倍も甘く、いつより何倍も深く愛されたと思うのは、和葉の気のせいではないはずだ。
 
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