君ともう一度、 恋を始めるために
柚葉がアルバイト始めるよりも前から、涼はその店の常連だった。
いつも仕立てのよさそうなスーツを着た涼も本が好きで、何度か言葉を交わしているうちに意気投合。
その頃の柚葉の生活は学校とアルバイト先の往復だったが、傍には常に本があり、いつの頃からかそこに涼もいるようになった。
そんな二人がお互いを意識して付き合うまでにそう時間はかからなかった。
決して裕福ではなかったけれど、穏やかで幸せな時間。
そんな中、涼といる時間が少しでも長く続いてくれることを柚葉は願っていた。
きっとそれは涼も同じだったと思う。

「俺、海外へ留学したいんだ」
「いいわね、私も行きたい」

窓辺の席に座っていたカップルから聞こえてきた会話。
そういえば、あの頃の涼もよく夢を語っていた。
「いつか世界中のホテルを回って見たいんだ」そう話す涼の瞳はいつも輝いていた。
けれど、熱く語る涼の姿に柚葉ただ微笑返すことしかできなかった。

―――あれから彼は、どんな世界を目にしたのかしら

涼のことを思うと、今でも柚葉の心はざわついてしまう。
それだけ、柚葉にとって涼は運命の人なのだ。
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