君ともう一度、 恋を始めるために
50年以上にわたり旅館を守り続けてきた祖母にとって、ここは大切な場所なのだ。
その思いが伝わってくるからこそ、柚葉は旅館を継ぐことにした。
それがもし、自分が原因で経営が悪化しているとするならば本末転倒だ。
だからこそ、明るく働く祖母を見るたびに柚葉は不安を感じていた。

「お客様ご到着です」
「はーい」

旅館の夕方はとにかく忙しい。
部屋の準備やお客様のお迎えなど一日の仕事のほとんどが夕方に集中する。
今日も団体客が無事到着し夜に行われる宴会の準備にみんな大忙しだった。
そんな中、急に館内が騒々しくなった。

ザワザワ、ドタドタ。

忙しく走る足音と、遠くから聞こえる物音。
ただことではない雰囲気に柚葉も辺りを見た。
すると、火災報知器が突然鳴り出した。
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