君ともう一度、 恋を始めるために
「火事です。早く逃げてください」
慌てたスタッフが駆けてきた。

「どうしたの、何があったの?」
「建物裏の倉庫から火が上がって、風向きの関係で旅館に延焼するかもしれません」
「そんな…」

旅館を経営する以上火事には人一倍気を付けていたし、倉庫には火の気になるものは絶対に入れていない。
火事なんて起きるはずのない場所に火事が起きたとなると考えられるのは・・・

ーーー誰かがわざと?

一瞬恐ろしいことを考えてから、柚葉は慌てて頭を振った。

「柚葉さん、逃げてください」

スタッフに腕を引かれ動き出そうとして、柚葉は足を止めた。

「ダメよ、まずはお客様の無事を確認しなくちゃ」

どれだけ大切な旅館でもまず守るべきは人の命で、その中でもお客様を無事避難させることが一番。
柚葉は周囲の安全を確認したうえで、建物の奥へ戻って行った。
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