君ともう一度、 恋を始めるために

柚葉は必死に叫んでお客様の避難誘導をした。
その後スタッフにケガがないことを確認し、自らも身一つで逃げ出した。
とにかく無我夢中だった。

「柚葉さん、大丈夫ですか？」
「ええ、みんな怪我はない？」

幸い火事はすぐに消え、建物を少し焦がした程度。
お客様も近くのホテルへ移ってもらうことができ、被害は最小限に抑えられたといえる。
もちろん修理は必要になるだろうが、思い入れのある建物が失われることもなかった。
しかし・・・

「柚葉さん、こっちは大丈夫ですから女将さんについていてあげてください」
「うん、ありがとう」

実は、お客様とスタッフがみな無事に避難できたと確認できた瞬間、それまで陣頭指揮を執っていた祖母がその場に倒れ込んだのだ。
意識もしっかりしていて怪我もないようだが、念のために病院へ搬送してもらった。
いくら元気に見えても高齢のため、柚葉も心配で仕方ない。