Good day ! 4【書籍化】
「大和さん、どこに行くの?」
 
車に乗ると、シートベルトを締めながら大和に聞いてみた。

「着いてからのお楽しみ」

涼し気な目元を細めて笑いかけてくる大和に、恵真はドキッとする。
結婚して7年経つが、未だに恵真は大和のかっこ良さに時折惚れ惚れしていた。

(なんだかちょっと……、緊張してきちゃった)

いつもは翼と舞の賑やかな声が後部座席から聞こえてくる車内だが、今は二人きり。
そう意識すると、恵真は初デートのような気分になってきた。

大和はスムーズにハンドルを切って、高速道路に乗る。
どこに行くのかも気になるが、恵真は何より、このシチュエーションに胸のドキドキが止まらなかった。
ちらりと大和の横顔に目をやると、視線に気づいた大和が、ん?と余裕の笑みで恵真を見つめる。
恵真は思わずパッと視線をそらした。

「なに? 恵真。可愛いんだけど」
「は? どういう意味ですか?」
「そのままだよ。いくつになっても可愛いな、恵真は」

そう言うと大和は、前を向いたまま右手でハンドルを握り、左手で恵真の手を握った。
突然のことに、恵真はキュッと身体をこわばらせる。

「や、大和さん。あの、運転中は、危ないから」
「ちょっと握りたくなっただけだよ」
「でも片手運転はダメ。車のハンドルは、10時10分を握らなきゃ」
「10時10分! 久しぶりに聞いた。ははっ! 相変わらずおもしろいこと言うな、恵真」

どこが?と、恵真は眉根を寄せる。
大和は両手でハンドルを握ると、キリッと背筋を伸ばした。

「ではエアマンシップに則り、地上走行もしっかりやります」
「はい、お願いします」
「ちなみにさ、恵真。最近の教習所で教えてるのは、10時10分じゃないらしいぞ」
「え? じゃあ、何時何分なの?」
「9時15分か、8時20分って説もあるらしい」
「8時20分!? ということは、どの辺り?」

この辺、と言って大和はハンドルの下の方を両手で握った。

「そんなに下を持つの? それって、ダンプカーのおじさんがオラオラって運転してるイメージなんだけど」
「ははは! 恵真、ダンプカーの運転手さんに怒られても知らないぞ?」

そんなことを話しながら、やがて大和はウインカーを出して高速道路を下りる。
そのまま真っ直ぐ進むと、前方に海が見えてきた。
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