蛍火のような恋だった
「おい凪、早くこいよ!最悪、次の授業、オカベの数学じゃん」
クラスの男子の声がして、私は反射的に視線を床に落とした。
自然と、胸に抱えた教科書を握る手に力が入る。
中島くんのいる男子グループが、賑やかに私の目の前を通り過ぎていく。
その数秒間に、すごく緊張してーー。
「お待たせ、蛍…あれ、なんかあった?」
彩綾ちゃんがハンカチをポケットに入れながら、中島くんたちが通りすぎて行った方向をみた。
「…あ、ううん。何にもない。行こ」
彩綾ちゃんに荷物を返して、私は弱々しい笑顔を見せた。
5時間目が終わる頃には、真っ黒な空から雨が降り始めていた。
「蛍、また明日!雨降ってるから、気をつけてね」
「うん、部活頑張ってね」
今日1日、日直だった私は書き途中の日誌から顔を上げた。
彩綾ちゃんが、同じ部活仲間数人と教室を出ていく。
その背中を見送って、視界を窓の外に向ける。
大きな雨粒が窓をつたい落ちていく。
学校帰りにスケッチ場所を探しに行こうと思っていたけど、あいにくの雨だから、まっすぐ家に帰るしかなさそう。
「岸田さん、また明日ね」
「またね」
日誌を書き終えた頃に、残っていた最後のクラスメイトが教室を後にして、残ったのは自分だけになった。
「…日誌、返さなきゃ」
教室の戸締りをして、職員室に向かう。