この道の行く末には。






ふらふらふらふら。

帰る気も起きずにぶらついていた校内。向かいの廊下を、ただならぬ様子で過ぎ去っていく誠を見つけた。

「…………?」

声をかけることもできない。そのくらい、誠の様子は真剣で、不思議で。

理由を知るために、誠が歩いてきただろう道を歩いてみる。その先にあった【図書室】

3年間 “ 俺 は ” まともに使ったことのないその場所へ続く扉を、開けた。





目が、あって。

時が、止まった。

そう、確信する。





そこに、いたのは。

「…………美衣、」

「…………ひさしぶりだね、司。」

この高校でいちばんの有名人。

木ノ下、美衣。


頭が混乱する。

まともにこうして向き合ったのは、本当に久しぶりだったから。



それなのに、相手は腹立つくらい “ 変 わ っ て い な い ” 笑顔で、そっと微笑みかけてくる。

ぎりぎり、と右手のひらに力がこもった。


「…………なにか、言おうよ。」

「…………」

「せっかくだから、少し、話そうよ……」

「…………みい、」

「だめ、かな。」


ふわり。春の陽だまりのように笑う美衣に、すとん、となにかが落ちてくる。

笑うくせに、悲しそうにするな、ばかやろう。
そんな風に言われてされて、放っておけるはずがない。


だって、美衣は。
だって、俺たちの______。




ひとつ、重くわかりやすくため息をつく。返事の代わりに、カウンター内に座る美衣の前へと近くのイスを引いた。

一線を置いて、座る。

最後の抵抗で、正面には座らなかった。少しずらして、美衣の顔を見ないように、身を置いた。


「美衣、図書委員だったっけ」

「ううん。今日だけ、代わってもらったの。」

当たり前のように、交わす会話。
それだけで、不思議と泣きそうになった。

もう2度と戻れない時間だと、諦めていたから。


「……誠に会うため?」

「うん。」


ここで嘘ついても、ばればれだもんね。
なんて、おどける美衣が、伏し目がちに笑う。

聞くまでも、なかった。



『美衣、ってさ。』
『美衣?なに?』



ふと、誠と交わした会話を思い出してしまった。





『落ち込んでるときに、無理やり笑うときな?』
『?』
『下向いて、伏し目がちになってるよな』
『……よく、見てんな』
『まあ……でもそれ美衣、自分で気付いてない』



確かこれは……俺と誠が、中学を卒業する当日、式が始まる直前。

1つ下の学年である美衣は、必然的に俺や誠と学校で会うことはなくなる。

当時の美衣は、そのことに随分と落ち込んでいた。


解れず仕舞いだった、誠が暴いた美衣のクセ。
3年越しに、ようやく理解する。


美衣は、笑うのだ。
たぶん、辛いときほど、哀しいときほど。

寂しい、ときほど。



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