幻の図書館
時計の針が動き出した瞬間、まぶしい光が部屋中に広がった。
わたしたちは思わず目を細め、光の中で立ちつくす。
――カチ、カチ、カチ……
時計の音は、さっきまでの重たい響きとはちがって、どこかやさしく聞こえた。
その音に包まれながら、ゆっくりと世界が変わっていく――そんな感じがした。
「……見て。」
岳先輩が、ガラスの窓の外を指さした。
そこには、さっきまで灰色にくもっていた町の風景が、まるで魔法みたいに色づいていく様子が映っていた。
青い空。白い雲。きらめく木々の葉っぱ。
そして、町の人たちがゆっくりと動き出し、笑顔を取りもどしていく――。
「……時間が、動き出したんだ。」
わたしは、時計の針を見つめながらつぶやいた。
「ずっと止まっていた町が、カイくんの思い出で、また動き始めたんだね。」
紗良ちゃんが、にっこりと笑った。
「……ありがとう、みんな。」
カイくんの目に、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ぼくは、忘れていたんだ。この町がどんなに大切だったか。
家族と過ごした時間も、友達と笑いあった日々も……ぜんぶ、ここにあった。
それを、思い出すのがこわくて……。」
わたしはカイくんの手をそっとにぎった。
「こわいままで、いいと思う。
でも、ほんとうに大事なものって、忘れても、ちゃんと心のどこかに残ってるんだよ。
それを思い出せたら……また、前に進める。」
カイくんは、目を閉じて、ふかくうなずいた。
そのとき、時計塔の奥にあった扉が、カチリと音を立てて開いた。
そこには、見覚えのある光の通路が広がっていた。
「戻る道、開いたな。」
蒼くんが静かに言う。
「行こう、みんな。」
わたしは小さくうなずき、カイくんにもう一度ほほえんだ。
「さようなら、時計の町。」
「さようなら、ぼくの止まった時間。」
わたしたちは、光の中へと歩き出した。
――次のページを、めくるように。
目を開けると、わたしたちは図書館に戻ってきていた。
さっきまでいた時計の町の空気が、まだ少し、服のすそに残っている気がした。
でも、本を閉じてしまえば、何もかもが静かだった。
「……また、帰ってきたんだね。」
紗良ちゃんがそっとつぶやく。
「うん。けど……今回のは、ただの“物語”じゃなかった。
ちゃんと、“誰かの記憶”だった」
わたしは、本の表紙を指先でなぞった。
そのタイトルは――
『時計塔の迷宮と時の迷子』
「なあ、この本……前に来たときは、なかったよな。」
蒼くんがぽつりと言う。
「うん。でも、ちゃんとここにある。
わたしたちが“読んだ”から、残ったんだと思う。」
わたしたちが体験したことは、ただの空想じゃない。
誰かの、ほんとうの思い出で、ちゃんと意味のある時間だった。
「ねえ、ひかり。まだまだ、ほかの本も読んでみたい!」
紗良ちゃんが、目をキラキラさせながら言った。
「うん、わたしも。
この図書館には、まだ知らない“物語”がいっぱいある。
それに……この書庫のひみつも、もっと知りたい。」
わたしたちは顔を見合わせて、にっこりと笑った。
冒険は、まだ始まったばかり。
どんな謎が待っていても、みんなといっしょならきっと大丈夫。
わたしは、次の“本”に手をのばした――。
わたしたちは思わず目を細め、光の中で立ちつくす。
――カチ、カチ、カチ……
時計の音は、さっきまでの重たい響きとはちがって、どこかやさしく聞こえた。
その音に包まれながら、ゆっくりと世界が変わっていく――そんな感じがした。
「……見て。」
岳先輩が、ガラスの窓の外を指さした。
そこには、さっきまで灰色にくもっていた町の風景が、まるで魔法みたいに色づいていく様子が映っていた。
青い空。白い雲。きらめく木々の葉っぱ。
そして、町の人たちがゆっくりと動き出し、笑顔を取りもどしていく――。
「……時間が、動き出したんだ。」
わたしは、時計の針を見つめながらつぶやいた。
「ずっと止まっていた町が、カイくんの思い出で、また動き始めたんだね。」
紗良ちゃんが、にっこりと笑った。
「……ありがとう、みんな。」
カイくんの目に、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ぼくは、忘れていたんだ。この町がどんなに大切だったか。
家族と過ごした時間も、友達と笑いあった日々も……ぜんぶ、ここにあった。
それを、思い出すのがこわくて……。」
わたしはカイくんの手をそっとにぎった。
「こわいままで、いいと思う。
でも、ほんとうに大事なものって、忘れても、ちゃんと心のどこかに残ってるんだよ。
それを思い出せたら……また、前に進める。」
カイくんは、目を閉じて、ふかくうなずいた。
そのとき、時計塔の奥にあった扉が、カチリと音を立てて開いた。
そこには、見覚えのある光の通路が広がっていた。
「戻る道、開いたな。」
蒼くんが静かに言う。
「行こう、みんな。」
わたしは小さくうなずき、カイくんにもう一度ほほえんだ。
「さようなら、時計の町。」
「さようなら、ぼくの止まった時間。」
わたしたちは、光の中へと歩き出した。
――次のページを、めくるように。
目を開けると、わたしたちは図書館に戻ってきていた。
さっきまでいた時計の町の空気が、まだ少し、服のすそに残っている気がした。
でも、本を閉じてしまえば、何もかもが静かだった。
「……また、帰ってきたんだね。」
紗良ちゃんがそっとつぶやく。
「うん。けど……今回のは、ただの“物語”じゃなかった。
ちゃんと、“誰かの記憶”だった」
わたしは、本の表紙を指先でなぞった。
そのタイトルは――
『時計塔の迷宮と時の迷子』
「なあ、この本……前に来たときは、なかったよな。」
蒼くんがぽつりと言う。
「うん。でも、ちゃんとここにある。
わたしたちが“読んだ”から、残ったんだと思う。」
わたしたちが体験したことは、ただの空想じゃない。
誰かの、ほんとうの思い出で、ちゃんと意味のある時間だった。
「ねえ、ひかり。まだまだ、ほかの本も読んでみたい!」
紗良ちゃんが、目をキラキラさせながら言った。
「うん、わたしも。
この図書館には、まだ知らない“物語”がいっぱいある。
それに……この書庫のひみつも、もっと知りたい。」
わたしたちは顔を見合わせて、にっこりと笑った。
冒険は、まだ始まったばかり。
どんな謎が待っていても、みんなといっしょならきっと大丈夫。
わたしは、次の“本”に手をのばした――。