幻の図書館
鏡の中の“わたし”に問いかけた瞬間、ふいに空気が凍ったように感じた。
鏡の“わたし”は、にぃっと笑った。その笑顔は、わたしが知っている自分のどんな笑顔とも違っていた。冷たくて、意地悪そうで、なにより――どこかさびしそうだった。
「ひかり、下がれ!」
蒼くんがわたしの前に立つ。その手には、ここに来るときに「調べたいことがある」と言っていた理由の“解析ルーペ”が握られていた。この道具は、相手の弱点や属性を調べることができる。戦闘用のアイテムではないけれど、謎を解くには大事な装備だ。いつのタイミングか、蒼くんは解析ルーペを手にしていた。
ルーペをかざすと、鏡の“わたし”の体が薄い光に包まれ、情報が浮かび上がった。
《鏡像存在:ヒカリ(影)》
《属性:不安・劣等感・孤独》
《対処法:対話と受容》
「……これ、倒すんじゃないんだ。」
岳先輩がつぶやく。
「戦っても意味がない。きっと、“向き合う”ことが必要なんだよ。」
わたしは一歩、前に出た。
影の“ひかり”は、じっとわたしを見つめている。どこか、何かを訴えかけてくるようなまなざし。わたしは深く息を吸って、話しかけた。
「あなた、わたしなんだよね。わたしの中にある、怖がりな気持ちや、ほんとは自信がないところ……そういうの、ぜんぶ隠してた。見ないふりをしてた。」
すると、影のわたしが、かすかにうつむいた。
「わたしね……完璧じゃないよ。怖いものもあるし、すぐに不安になるし。でも、それでも――仲間がいてくれるから、前に進めるの。あなただって、それを知ってるでしょう?」
その瞬間、鏡の“わたし”の目から、一粒の涙がこぼれた。
光が、さあっと差し込む。
鏡に囲まれた空間が、一瞬にしてやわらかな光で満たされ、影の“わたし”が、ほのかに透けていった。
まるで、「ありがとう」と言っているかのように、ふわりとほほえんで。
そして――スッと、消えた。
「……消えた、の?」
紗良ちゃんがそっと言う。
わたしは、静かにうなずいた。
「ううん、きっと……もとに戻ったんだと思う。わたしの中に。」
「“もうひとりのひかり”は、ひかり自身だったってこと?」
「たぶんね。でも、ただのコピーとかじゃなくて……ほんとの意味で、わたしの“気持ち”だったんだと思う。忘れかけてた部分の、わたし。」
岳先輩が、まるでなにかを確信したように、うなずいた。
「この物語の試練は、“敵”を倒すことじゃなし、”謎”を解くことでもない。“自分と向き合うこと”だ。そうじゃないと、次には進めないんだろうね。」
その言葉を聞いたとき――一冊の本が、宙から舞い落ちてきた。
ページの端に、小さく書かれていた。
《試練クリア》
《次章:記憶の湖と沈んだ名前》
鏡の“わたし”は、にぃっと笑った。その笑顔は、わたしが知っている自分のどんな笑顔とも違っていた。冷たくて、意地悪そうで、なにより――どこかさびしそうだった。
「ひかり、下がれ!」
蒼くんがわたしの前に立つ。その手には、ここに来るときに「調べたいことがある」と言っていた理由の“解析ルーペ”が握られていた。この道具は、相手の弱点や属性を調べることができる。戦闘用のアイテムではないけれど、謎を解くには大事な装備だ。いつのタイミングか、蒼くんは解析ルーペを手にしていた。
ルーペをかざすと、鏡の“わたし”の体が薄い光に包まれ、情報が浮かび上がった。
《鏡像存在:ヒカリ(影)》
《属性:不安・劣等感・孤独》
《対処法:対話と受容》
「……これ、倒すんじゃないんだ。」
岳先輩がつぶやく。
「戦っても意味がない。きっと、“向き合う”ことが必要なんだよ。」
わたしは一歩、前に出た。
影の“ひかり”は、じっとわたしを見つめている。どこか、何かを訴えかけてくるようなまなざし。わたしは深く息を吸って、話しかけた。
「あなた、わたしなんだよね。わたしの中にある、怖がりな気持ちや、ほんとは自信がないところ……そういうの、ぜんぶ隠してた。見ないふりをしてた。」
すると、影のわたしが、かすかにうつむいた。
「わたしね……完璧じゃないよ。怖いものもあるし、すぐに不安になるし。でも、それでも――仲間がいてくれるから、前に進めるの。あなただって、それを知ってるでしょう?」
その瞬間、鏡の“わたし”の目から、一粒の涙がこぼれた。
光が、さあっと差し込む。
鏡に囲まれた空間が、一瞬にしてやわらかな光で満たされ、影の“わたし”が、ほのかに透けていった。
まるで、「ありがとう」と言っているかのように、ふわりとほほえんで。
そして――スッと、消えた。
「……消えた、の?」
紗良ちゃんがそっと言う。
わたしは、静かにうなずいた。
「ううん、きっと……もとに戻ったんだと思う。わたしの中に。」
「“もうひとりのひかり”は、ひかり自身だったってこと?」
「たぶんね。でも、ただのコピーとかじゃなくて……ほんとの意味で、わたしの“気持ち”だったんだと思う。忘れかけてた部分の、わたし。」
岳先輩が、まるでなにかを確信したように、うなずいた。
「この物語の試練は、“敵”を倒すことじゃなし、”謎”を解くことでもない。“自分と向き合うこと”だ。そうじゃないと、次には進めないんだろうね。」
その言葉を聞いたとき――一冊の本が、宙から舞い落ちてきた。
ページの端に、小さく書かれていた。
《試練クリア》
《次章:記憶の湖と沈んだ名前》