幻の図書館
 目をあけたとき、わたしは、見知らぬ場所に立っていた。

 空は夕焼け色で、金色の雲がふんわりと浮かんでいる。まわりには、石でできた古い建物がならんでいて、足元はまるでゲームに出てくる町みたいな、石畳の道が続いていた。

 「ここって……どこ?」

 さっきまで図書室にいたはずなのに、今は全くちがう場所にいる。わたしはぐるりと見まわして、ため息をついた。

 夢かと思ったけど、足もとに落ちてた小石を拾ってみると、ちゃんと冷たくて重たい。風もふいてくるし、においも音もする。

 ——これ、夢じゃない。

 だとしたら、本当にあの本に吸いこまれたの……?

 もう一度、自分の名前が書かれた本のことを思い出す。あれはただの本じゃなかった。前に読んだ本では同じような本のことをこう呼んでた。「ワープブック」——読んだ人を中に引きこむ本。まるで、物語の中に入ったみたいに。

 「すごい……! でも……どうやって帰るの?」

 ちょっとだけ、心細くなってきた。

 そのときだった。

 カン、カン、カン……と遠くで鐘の音が鳴った。

 振り返ると、広場のまんなかに、大きな掲示板が立っているのが見えた。近づいてみると、そこにはなにかの“ルール”が書かれていた。

 〈この物語から出るには、謎を解かなければならない〉

 〈正解すれば、つぎの章へ進める〉
 〈間違えれば、やり直し——そして、永遠に……〉

 「な、なにそれ……!」

 ひざがガクッとふるえた。
 ゲームみたいな話だけど、これってほんとうにわたしの身にふりかかってること?

 冗談だったら笑えるのに。けど、あの本に吸いこまれて、この世界に来たことを思い出すと、どうしてもそうは思えなかった。

 「落ちつかなきゃ、ひかり。こういうときこそ、冷静に考えるのよ。」

 わたしは深呼吸をして、自分に言いきかせた。こういうときこそ、本で学んだこと、推理小説の登場人物みたいに、落ちついて考えるべき。

 (謎を解けば、帰れる……)

 だったら、やるしかない。わたしは、本の中の世界に来てしまった。だったら、わたしの頭で、この物語の謎をぜんぶ解いてやる!
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