幻の図書館
 広場を歩いていると、どこかからにぎやかな声が聞こえてきた。

 「ちょっと、まってってば! その先、なにかいるかも――」

 「うるさい。オレはこの道が正しいと思ってるんだ。」

 「まったく、落ち着いてよ、ふたりとも……。あっ、誰かいるみたいだ。」

 その声に、わたしは顔を上げた。

 広場の向こうから、三人の子がこっちに向かって歩いてきていた。どこか見覚えのある制服……えっ、うちの学校の?

 一番前にいたのは、銀色の髪がちょっとだけ長くて、鋭い目をした男の子。口をとがらせて、なんだかピリピリしてる。
 その後ろには、小柄で元気そうな女の子。大きな声でなにか言っていて、ちょこちょこ走り回ってる。
 いちばん後ろの男の子は、背が高くて、のんびりした雰囲気。どこかお兄さんっぽくて、落ち着いていた。

 「えっ……みんな、うちの学校の人?」

 わたしが声をかけると、三人はぴたりと立ち止まった。

 「おまえ、もしかして……七瀬ひかりか?」

 銀髪の男の子がじっとわたしを見つめた。

 「えっ……うん、そうだけど。」

 「やっぱりか。あんた、成績トップの読書マニアだろ。理屈っぽくて、なんでも一人でやるタイプの。」

 いきなりの毒舌に、わたしはむっとした。

 「な、なによその言い方……!」

 「まぁまぁまあまあ!」
 ちっちゃい女の子が割って入ってきた。「(そう)くん、またそーいう言い方して〜。ごめんね! あたし、月島(つきしま)紗良(さら)! 中1で〜す!」

 紗良ちゃんは、ぴょんと飛びはねながら手をふってくれた。まるで、動物みたいに元気いっぱいで、ちょっとわたしとはちがうタイプ。

 「俺は霧島(きりしま)(がく)。中3だよ。こっちは中2の城ヶ崎(じょうがさき)(そう)。ふたりの面倒、なぜか見ることになってる。」

 そう言ってにこっと笑った男の子は、まるでお兄ちゃんみたいだった。

 「それでさ、ひかりちゃんもこの世界に?」

 「……うん。本を開いたら、気づいたらここにいて……。」

 わたしが説明すると、みんなうなずいた。

 「やっぱり、みんな同じだ……。うちの図書室、なんか変だよね。」

 「でもさ〜、なんか面白くない? 本の中に入っちゃうなんて! ゲームみたいでワクワクしちゃう!」
 紗良ちゃんがきらきらした目で言った。

 「ワクワクしてる場合かよ……。ルール見ただろ? 謎を解かないと出られないんだぞ。」

 蒼くんが、ふぅ、とため息をついた。

 でも、その横顔を見て、わたしはちょっとだけ思った。

 (……この子、本当は誰より冷静で、仲間のことちゃんと見てるのかも…)

 なんだか、ちょっとだけ、チームの予感がした。
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