幻の図書館
 石の扉をくぐると、中はまるで迷路のようなつくりになっていた。

 細くてなが〜い通路がのびていて、壁には本棚がずらりと並んでいる。だけど、本の背表紙はどれも黒くて、なにも書かれていない。

 「うわあ……変な図書館。」

 紗良ちゃんが、ひそひそ声でつぶやいた。

 「本が全部、名前消されてる……?」

 わたしがつぶやくと、岳先輩がうなずいた。

 「たぶん、これも“謎”の一部だ。ここから、なにかを見つけるんだな。」

 そのとき、壁の奥のほうから、ゴォーーン……と低い鐘の音が響いた。と、同時に、目の前の本棚にある一冊だけが光りだす。

 「なんだ!?」
 蒼くんが駆け寄って、本を手に取った。

 タイトルは――

 『知識の扉』

 「それって、“第一章”のヒントが書いてある本だと思う。」
 わたしはそう言って、ページを開いた。

 中には、たくさんの問題がのっていた。

 《クイズ1》
 ある日、太陽が西からのぼりました。それを見た人はどう思った?

 「え? 太陽が……西?」

 「そんなわけないでしょ~。」
 紗良ちゃんが笑ったけど、蒼くんは真剣な顔をしていた。

 「たぶん、これはなぞなぞだ。つまり、想像力を試されてる。」

 「でも、現実的には、地球が反対に回らないと無理じゃない?」

 「それも答えかも。でも、問題は“どう思ったか”だよね。」

 わたしは少し考えてから言った。

 「『あれ?おかしいな』って思った……とか?」

 その瞬間、ページがぴかっと光って、文字が浮かびあがった。

 《正解!気づくことが大事!》

 「やったぁ!」
 紗良ちゃんがぴょんとジャンプした。

 「なるほど……“知識”だけじゃなくて、気づく力が試されてるんだ。」
 岳先輩の目がきらっと光った。

 そのあとも、ページには次々とクイズが出てきた。

 《クイズ2》
 水の中で燃えるものはなに?

 《クイズ3》
 使うほど軽くなるものって、な~んだ?

 わたしと蒼くんは、頭をフル回転。紗良ちゃんの直感も、ときどき大あたり。岳先輩は、昔読んだ伝説の話を持ち出してくれて、チームはどんどん息が合っていった。

 最後のページには、こう書いてあった。

 《知識の扉は、心をつなぐカギで開く》

 「……心を、つなぐ?」

 すると、目の前の壁に大きな光の扉が現れた。

 「もしかして、ここを通れば、“第二章”に行けるんじゃ……。」
 わたしが言い終わる前に、扉の真ん中が光りはじめる。

 ――チームの絆が試されるとき。扉は、心の力でひらく。

 わたしは、みんなの手をぎゅっと握った。

 「一緒に行こう。この先も、ぜったいに!」

 蒼くんが、ちょっと照れたようにうなずく。
 紗良ちゃんは「うんうんっ!」と何度もうなずいた。
 岳先輩も、安心した顔で「行こう」と言ってくれた。

 すると、光の扉が静かに、でも力強く開いたのだった。

 こうして、わたしたちの“本の冒険”ははじまった。

 これは、まだほんの“第一章”。

 この先に、どんな謎が待っているのか――それは、まだ誰も知らない。
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