幻の図書館
 わたしたち四人は、広場の中心にある掲示板の前に集まった。

 もう一度ルールを確認する。

 〈この物語から出るには、謎を解かなければならない〉
 〈正解すれば、つぎの章へ進める〉
 〈間違えれば、やり直し——そして、永遠に……〉

 ——やっぱり、ただの遊びじゃない。

 「ねえ、これって、ほんとに"本の中の世界"なのかな?」

 わたしがつぶやくと、蒼くんがうなずいた。

 「だと思う。ルールも、世界のつくりも、まるでRPG(ロールプレイングゲーム)みたいだ。」

 「でも、誰が作ったの? どうしてあたしたちだけが……?」

 紗良ちゃんが首をかしげた。

 「それも、たぶん……“謎”のひとつなんだよな。」
 岳先輩が静かに言った。「この世界そのものが、仕組まれた何かだ。都市伝説と関係あるかも。」

 そのとき、掲示板の下のほうに、光る文字が浮かびあがった。

 〈第一章の謎〉
 《知識の扉を開け》

 「……扉?」

 するとすぐ近くの建物の前で、ギィィ……という重たい音がした。

 見ると、大きな扉がひとりでに開いたところだった。その建物は石造りで、図書館のようにも見える。だけど、窓はなく、中は真っ暗。

 「なんだか、呼ばれてるみたい……。」
 わたしはそう感じた。

 「行くしかないね!」
 紗良ちゃんが元気よく言った。

 「行く前に、状況を整理するぞ。」
 蒼くんが、地面に木の枝でメモのように図を書きはじめた。

 「まず、俺たちは全員、本に吸いこまれてこの世界に来た。
 ここは“本の中の世界”で、ルールにしたがって進まないと戻れない。
 それから、謎を解くことで次の章に進める。つまり、この“章”ごとに仕掛けがあるはずだ。」

 「章……ってことは、まるで本の目次みたいに進んでいくってこと?」

 「そういうことだろ。たぶん、この物語にも終わりがある。そこまで進めば、現実に戻れる。」

 「つまり、この“知識の扉”が、最初のステージってわけだね!」

 わたしは、少しだけ胸がどきどきしてきた。
 こわいけど、好奇心がそれ以上にふくらんでいく。

 「わたし、本の中で謎を解くの、ちょっと……楽しいかも。」

 「……いい性格してるな、あんた。」
 蒼くんが、あきれたように言った。でも、その顔は、少しだけおだやかに見えた。

 「よし、じゃあ行こう!」
 岳先輩が背中を押してくれる。

 わたしたちは、そろって重たい石の扉をくぐった。

 その先には、真っ暗な通路と、静かな空気、そして……また新しい“本の謎”が待っていた。
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