幻の図書館
 「ようこそ、ようこそ。ここは“マスカレード・シティ”、仮面の町でございます!」

 ピエロはくるりと宙返りしてから、わたしたちの前にぴたっと着地した。口元はずっとにやけていて、まばたきひとつしない。

 「今宵の主役たちは、あなたがた四人。特別な謎に挑む挑戦者でございます!」

 「……イベントキャラ、って感じかな。」

 わたしは小さな声でつぶやいた。

 こういう派手なキャラって、本でもだいたい案内役とか、ルールを説明する係なんだよね。

 「本日のルールは、いたってシンプル。町にちりばめられた“嘘”を、あなたたちの“知恵”で見抜いてくださいませ。」

 ピエロが、カーン!と金色のステッキで地面をたたいた。すると、広場の石畳ががたがたと震え、真ん中に赤い文字が浮かびあがった。


《この町に真実はひとつだけ 仮面の下にあるのは嘘》
 

 わたしは、ぞくっと背中に寒気が走った。

 「仮面の下に、嘘……?」

 「つまり、この町の住人たちは、何かを隠してるってことか。」

 蒼くんが腕を組みながら言う。

 「え〜、でも、嘘ってどうやって見つけるの?みんな仮面してて、顔色も読めないし~。」

 紗良ちゃんが不満そうに言った。だけどその横で、岳先輩はうなずいていた。

 「これは、“人狼ゲーム”に近い形式かも。何人かの住人に話を聞いて、嘘を見抜く。きっと、言葉の矛盾や、おかしな言動を探すことになるんだろう。」

 人狼ゲーム。クラスで流行ったことがあった。正体を隠した“狼”を推理で見つけ出すあのゲーム……。

 なるほど。今回はそれがテーマなんだ。

 「さあ、まずは町をまわって、住人とお話ししてみてくださいませ…。」

 ピエロがくるりと回転して、広場の奥にある門を指さした。

 「ただし!お気をつけあれ。誰もが仮面をかぶり、誰もが嘘をつくこの町では……“見たままを信じると、足元をすくわれる”かもしれませんよ?」

 ピエロはくすくすと笑った。そして、ふわっと煙のようにかき消えてしまった。


「……つまり、この町の中から“本当のことを言ってる人”を見つければ、クリアできるってことかな。」

 わたしはみんなに確認するように言った。

「正確には、“ひとつだけある真実”を見つけるってことだろうな。それが何なのかはわからないけど。」

 蒼くんは、腕を組んだまま町の奥を見つめていた。

「どんな住人が出てくるかな~。ちょっとドキドキする!」

 紗良ちゃんは目をきらきらさせている。こういうゲーム仕立ての冒険、彼女はけっこう楽しみにしてるみたい。

「ルールはシンプルだけど、罠も多そうだ。まずは情報集めだね。四人で手分けして、町の住人に話を聞こう。」

 岳先輩の提案に、みんなうなずいた。

「それじゃ、広場を中心にして、四方向に分かれてみようか。時間を決めて、またここに集合しよう。」

 わたしがそう言うと、蒼くんも「それが効率的だな。」とすぐに賛成してくれた。

 こうして、わたしたちは仮面の町の探索をはじめた。
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