幼なじみに溺れました

踏み込む距離


ーーー



 

放課後の廊下

凛は急ぎ足で階段を降りていた

今日はもうさっさと帰りたかった

教室でのあの嫌味も ずっと胸に残っていたから

 

「逃げんなよ」

 

後ろから聞き慣れた声が追いかけてくる

 

「逃げてない」

 

「めっちゃ逃げ足速えけど」

 

「用事あるだけだから」

 

「嘘くせえ」

 

軽く肩を並べられる

自然と歩幅を合わせられてしまうのがまたムカつく

 

「ほんとに嫌ならさ」

凪がふと呟く

「無視すりゃいいのに」

 

「無視しても話しかけてくるじゃん」

 

「そりゃ そうだな」

 

「意味わかんない」

 

「面白いから」

 

またそれ

毎回それ

 

「ほんと性格悪いよね」

 

「褒めてんだろ?」

 

凛はため息をついた

でももう最近はこのテンポが日常になりつつあった

 

昇降口に着くと

凪がふと小さく手を伸ばした

 

「ネクタイ曲がってんぞ?」

 

「え?」

 

咄嗟に身を引こうとしたけど間に合わなかった

 

凪の指先が軽くネクタイを直してくる

動きは雑じゃない

指先が喉元を一瞬かすめた

 

「ちょ…自分でできるってば」

 

「動くなって」

 

近い

近すぎる

 

顔が熱くなるのが分かった

 

凪は一度手を離してからニヤッと笑った

 

「はい完成」

 

「……」

 

「ほら 顔真っ赤」

 

「うるさい!」

 

思わず声を上げてしまった

それを見た凪は小さく肩を揺らして笑った

 

「かわいー」

 

「……ほんとムカつく」

 

「うん それも面白い」

 

全部計算の上でやってるのがわかるから余計に腹立つ

でも

この心臓の音はなんなんだろう

自分でも全然わからなかった

 

帰り道

結愛から通知が入る

 

【大丈夫?今日の昼のやつ】

 

凛はスマホを見つめたまま 少し考えてから短く返した

 

【平気】

 

でも本当は全然平気じゃない

 

ほんと 意味わかんない

何もかも

 

ーーー

 
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