幼なじみに溺れました
ざわめきの正体
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次の日の朝 教室に入ると
いつもより一段と刺さるような視線を感じた
沙耶がすぐに小声で近寄ってきた
「凛 昨日…凪くんと一緒にいたでしょ?」
「…なんで知ってんの?」
「見られてたっぽい」
「は…?」
「誰かが駅前で見たって噂になってる」
一気に嫌な汗が背中を伝うのがわかった
「まじか…」
「うん 完全に広まってるよ」
教室の隅でまた女子たちが集まってヒソヒソ話してるのが目に入る
「ほんと抜け目ないよね あの子」
「結局狙ってたってこと?」
「意外と男慣れしてんじゃん」
「上手くやったね」
耳に入れたくなくても勝手に聞こえてくる
「ほんともうやだ…」
凛は小さく吐き出した
沙耶がそっと肩を叩いた
「気にすんなって言いたいけどさ…キツイよね」
「うん…」
本当は平然を装ってる余裕なんてもう無かった
授業中も 休み時間も
誰かの視線がずっと刺さってる気がして集中できなかった
そして昼休み
わざわざ女子グループが近づいてきた
またあのリーダー格の子だった
「凛ちゃんさ 昨日楽しかった?」
わざとらしい笑顔だった
「別に 普通だったけど」
「ふーん 凪くんも案外チョロいんだね」
「…どういう意味?」
「ほら 凛ちゃんってさ 男慣れしてなさそうだったから どうせ遊ばれて終わるんだろうなーって思ってたんだよね」
「……」
「凪くんさ 中学の時も似たようなことあったから」
「……知らないし そんなの」
「まあ そのうちわかると思うけど」
女子たちはそれだけ言って去っていった
背中に残る嫌なざわつきだけが胸の中に残る
沙耶がすぐに隣に来た
「ほんと最低だよね あいつら」
「…もう気にしてないから」
「嘘下手すぎ」
「……」
ほんとは
今にも泣きそうだった
でも泣きたくなかった
放課後
昇降口で靴を履き替えてると
また背後から凪が静かに近づいてきた
「お疲れ」
「……うん」
「今日 だいぶ言われてたな」
「気にしてない」
「嘘だな」
凪は真顔のままポケットに手を突っ込んでいた
「無理してんなら言えよ」
「無理なんかしてない」
「……」
しばらく沈黙が続いた
その静けさが逆に心臓に刺さった
「さ」
凪が小さく口を開く
「たまには頼ってもいいんだぞ?」
「……え?」
「無理に平気なフリすんの そろそろやめたら?」
「……」
「ほら また顔赤い」
「…うるさい!」
凪は少しだけ笑って
そのまま隣を歩き始めた
「送る」
「別にいいし」
「黙って歩け」
(ほんとに 何なのこの人)
でも
隣を歩くこの距離感を
もう拒否できなくなってる自分がいた
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