幼なじみに溺れました

境界線の崩壊



ーーー


 

その週の金曜日

放課後 教室でプリント整理をしていると
またいつものように凪が隣の席に勝手に座ってきた

 

「なに まだ残ってんの?」

 

「別に ちょっとだけ整理してただけ」

 

「真面目だな」

 

「前にもそれ言ったでしょ」

 

「だって事実じゃん」

 

凪は肘をついてじっと凛を見つめてくる

その視線がいつもよりまっすぐすぎて また心臓が落ち着かなくなる

 

「…なに?」

 

「いや 別に」

 

「なら見ないでよ」

 

「お前が動揺してる顔見るの好きなんだけど」

 

「……ほんと性格悪い」

 

「俺が性格良かったらつまんねーだろ」

 

呆れたようにため息をついた凛に

凪はふっと口角を上げたまま 少しだけ距離を詰めてきた

 

「あのさ」

 

「…なに?」

 

「今日ちょっとだけ付き合えよ」

 

「は?どこに?」

 

「行けばわかる」

 

「え、いやいや無理でしょ」

 

「無理じゃない」

 

「…勝手に決めないで」

 

「もう断れねえだろ」

 

そう言って立ち上がり 凛の鞄をまた勝手に肩にかけた

 

「…ほんとに…もう…」

 

呆れながらも
気付けば自分も立ち上がって一緒に歩き出していた

 

学校を出ると ほんのり秋の冷たい風が吹いていた

駅前を通り過ぎて少し歩いた先の公園に連れてこられる

 

「ここ?」

 

「ん」

 

凪はベンチに座ると
当たり前みたいに隣をぽんっと叩いてきた

 

「ほら 座れよ」

 

「…何がしたいの」

 

「別に 何もしねーよ」

 

少し疑いながらも隣に座ると
冷たい風が髪を揺らした

 

「夜とか静かでいいだろ ここ」

 

「…まあ 確かに」

 

「たまにはこういうのも悪くねえだろ?」

 

「うん…」

 

そのまま沈黙が流れる

でも今までの沈黙とは少し違ってた

妙に心臓が落ち着かない

変に意識してしまって どこに視線を置けばいいかわからなくなる

 

凪は何も言わず前を見ていた

けど突然

 

「なあ」

 

「…なに?」

 

「お前さ」

 

凪の声が少し低くなった

 

「ほんとは 俺のこと気にしてんだろ?」

 

「……は?」

 

いきなりすぎて頭がついていかない

 

「毎日俺が絡んでんのに なんだかんだちゃんと答えてくれてんじゃん?」

 

「…そ、それは…」

 

「俺がここまでしつこくすんの お前だけだけど?」

 

「な、なんで…」

 

「さあ?」

 

凪はニヤッとだけ笑った

でもその目は どこか真剣に見えていた

 

「…ふざけないで」

 

「ふざけてねーよ?」

 

凛の胸はバクバクしていた

息が少し乱れてるのが自分でもわかった

 

「ほんと わけわかんない」

 

「わけわかんねーくらいで丁度いいんじゃね?」

 

凪はそれだけ言って

そのまま背もたれに体を預けた

 

冷たい風がまた髪を揺らす

心臓の音だけがやたらうるさく響いてた

 

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