幼なじみに溺れました
崩れた心に落ちるー手
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その日の放課後
帰り支度を終えた凛は早足で校舎を出ようとしていた
何も考えたくなかった
誰とも話したくなかった
でも昇降口の外で待っていたのは
当たり前のようにそこに立っていた凪だった
「…なに?」
「逃げんの早えな」
「…帰るだけだし」
「ふーん」
凪はそのまま凛の隣に並んで歩き出す
自然と歩幅を合わせられるのが腹立たしかった
でもそれを振りほどく気力もなかった
しばらく沈黙が続いたあと
凪が不意に口を開いた
「昨日さ」
「……なに?」
「またあの女たちに何か言われたろ?」
「……別に」
「なあ」
「何」
「もうそろそろ本音言えよ」
「は?」
「俺のこと ほんとに何とも思ってないの?」
「……っ」
心臓がドクンと跳ねた
「何度も言ってるでしょ 何とも思ってないって」
「ほんとに?」
「ほんとに!」
「じゃあ俺が他の女と遊んでても 何も感じない?」
「……」
返事ができなかった
喉が詰まるように言葉が出ない
凪はゆっくりと立ち止まる
そして軽く凛の腕を掴んだ
「じゃあ試してみようか」
「…なにを」
「俺が他の女と付き合っても 平気かどうか」
「……」
「試していい?」
「…やめてよ」
「なんで」
「やめてって言ってるでしょ!」
思わず声が少し震えた
でももう堰を切ったみたいに出てきた
「…ほんとに最低だよ…」
凪は小さく目を細めたまま凛の顔をじっと見つめる
「な?」
「……」
「やっぱ気にしてんじゃん」
「……っ」
「ほら バレバレ」
「もうやだ…ほんとにやだ…」
凪はゆっくり手を離した
でも声のトーンは静かなまま
「じゃあさ」
「……」
「そろそろ素直になれば?」
「……無理」
「何が」
「だって…意味わかんないもん」
「別にわかんなくていいだろ?」
「……っ」
凪はそれだけ言うと 再び歩き出した
当たり前みたいに凛の鞄を片手で持ちながら
「帰るぞ」
その背中を見つめながら
凛はもう どうしたらいいのかわからなくなっていた
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