幼なじみに溺れました
試される距離
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翌日 昼休み
またあの先輩が教室に顔を出してきた
今度は堂々と凛の前まで来て声をかけてくる
「凪くん ちょっといい?」
「…何」
「今日さ 放課後また行かない?」
「どこに」
「昨日のゲーセン楽しかったからさ 今度は映画どうかなって思って」
凪は無表情のまま少しだけ首を傾けた
「…暇だったら」
「ほんと?やった」
先輩は満足そうに微笑んでそのまま教室を出ていった
隣でその会話を全部聞いてた凛の胸の中はグチャグチャだった
(また誘われてる…)
(また行くの…?)
(私にあんなこと言ってたくせに…)
自然と指先が強く拳を握りしめていた
「なに?」
凪が横目でこちらを見てきた
「…別に」
「またそれ」
「ほんとに別にだから!」
「……ふーん」
凪はわざとらしく何も言わずに笑った
それが余計に腹立たしくて胸が苦しかった
放課後
昇降口で靴を履き替えながら凛は決めた
今日だけはもう自分から離れよう
これ以上一緒にいたら泣きそうだった
でも昇降口を出た瞬間
当たり前のように凪が隣に立っていた
「…なに?」
「お前先に帰ろうとしたろ」
「別に」
「もう別に飽きた?」
「……」
「俺が誰と遊んでも平気?」
「…勝手にすれば?」
「マジで?」
「……」
言葉が詰まる
胸の中で何かが爆発しそうになるのを必死に抑えた
「なあ」
「…なに」
「お前さ そろそろ自分で自分壊れそうじゃね?」
「壊れてないし」
「嘘下手すぎ」
凪はゆっくりと歩き出しながら ぽつりと続ける
「もしさ」
「俺が本当に その先輩と付き合ったらどうすんの?」
「……」
「泣く?」
「泣かない」
「本当に?」
「泣かないって言ってるじゃん!」
その瞬間
不意に凪が立ち止まり
凛の腕をぐっと掴んで引き寄せた
「なにっ…」
「泣くくせに」
至近距離で囁くように言われたその瞬間
胸がギュンっと苦しくなり
顔が一気に赤くなるのがわかった
「ほんと…性格悪い」
「お前が可愛いから」
軽く囁くその声が耳に残ったまま
凛はもう何も言えなくなった
(もう無理…)
(ほんとに もう無理)
ーーー