幼なじみに溺れました
壊れかけの心臓
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週末 金曜日の放課後
凛は教室の隅でノートをまとめていた
それをわざとらしく遮るように 例の先輩がまたやってきた
「凪くん 今日ね 約束の映画行くよね?」
凛の背中がピクリと反応する
凪は机に肘をついたまま淡々と返した
「まぁ 行くとは言ったけど」
「やった 楽しみにしてたから」
先輩は振り返り ちらっと凛の方を見て微笑む
まるで”勝ち誇った”と言わんばかりに
「凛ちゃんも誘ってあげようか?」
「…結構です」
「あ そ?でも凪くんって優しいからすぐ女の子に好かれちゃうんだよね」
わざとらしい牽制が胸に刺さる
ぐっと拳を握りしめた
でも顔には出さないように必死で堪えた
沙耶が後ろからそっと肩をポンと叩いてくる
「…無理すんなって」
「大丈夫だから」
「凛…もう限界でしょ?」
「…大丈夫」
でも
胸の奥はずっと叫んでた
(大丈夫なわけない)
(苦しくて ぐちゃぐちゃで)
(ほんとは…もう泣きたい)
そのまま先輩は満足そうに教室を去っていった
凪は一言も何も言わなかった
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帰り道
凛は足早に昇降口を抜けて 一人で帰ろうとした
でもやっぱり
背後から当たり前のように凪が追いかけてくる
「おい」
「……」
「無視すんなって」
「今日は一人で帰るから」
「そろそろ本気で壊れるぞ?」
「もう壊れてるよ!」
思わず声が大きくなった
抑えられなかった
「…じゃあもう言うけどさ!」
「凪はいつもいつも他の女とも遊ぶし」
「誰にでも優しいし」
「そういうの全部見せつけてきて!」
「何回も苦しくなって!」
「私がどれだけ…どれだけ…!」
そこで喉が詰まる
息が苦しくなる
目が潤むのを隠せなくなった
凪は静かに立ち止まったまま 凛を見つめていた
そしてゆっくり
ポケットから手を抜いて そっと凛の頭に置いた
「やっと言ったな」
「……っ」
「お前がそこまで言うの 待ってた」
「…何それ…」
「お前が全部自分で気付くまで 俺からは言わねえって決めてたんだよ」
「ずるいよ…」
「ずるいだろ?」
「ほんと最低」
「でも俺 お前だけだから」
その一言が
一瞬で全部の感情をぶち壊した
涙が溢れて 止まらなくなった
凛はただ 俯いて泣き続けた
凪は黙ってその頭を撫で続けていた
その手のぬくもりが
今までの全部を包み込むみたいに優しくて
余計に涙が止まらなくなるだけだった
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