幼なじみに溺れました
重なる距離
ーーー
あの日以来
少しだけ空気が変わった
凛も凪も以前のように
わざとぶつかり合うことは減っていた
でも
新しい違和感がそこに生まれていた
「おはよ」
「…おはよ」
凪は変わらず隣に座り
何気ない日常の会話を交わす
だけど心の中は
まだザワザワしたままだった
(ほんとに…私だけなのかな)
(でも…)
授業中
ふとした瞬間に隣の凪と目が合う
その度に心臓がバクッと跳ねた
凪は微笑んだまま
「ニヤ」でもなく「からかい」でもなく
ただ どこか優しく微笑む
(ずるい…)
(こうされると また期待しちゃう)
放課後
昇降口を出ると
いつものように凪が並んでくる
「今日は寄り道するぞ」
「…え?」
「いいから」
そのまま連れて行かれたのは駅前のカフェだった
以前 先輩と一緒に行ってた場所
思わず立ち止まった凛を
凪は振り返る
「気にすんなよ」
「…別に気にしてない」
「嘘」
「ほんとに!」
「ほんと嘘下手だな」
凪は当たり前みたいにドアを開けた
「入るぞ」
そのまま半ば引きずるように席に座らされる
目の前にいる凪は
妙に落ち着いた表情だった
「…何?」
「別に」
「なら なんでここなの?」
「お前とちゃんと来たことなかったから」
「…でも ここ…」
「だからこそ」
凪はカップに入ったホットココアを軽くかき回す
「お前はさ」
「…何?」
「まだ不安なんだろ?」
「……」
何も返せなかった
その通りだったから
「安心させてやる」
「……」
「俺は お前しか興味ねえから」
小さく でもはっきりそう言われた言葉が
胸に染み込んでくる
(ほんとに…信じていいのかな)
頭ではまだ疑っていた
でも心は もう信じたがっていた
その夜
ベッドに横になっても
凪の言葉が何度も頭の中を巡っていた
(私…ほんとに…好きなんだ)
目尻が少し熱くなった
だけど今までの涙とは違って
なんだか暖かかった
ーーー