幼なじみに溺れました
花火大会
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夕暮れが少しだけ赤く染まり始めたころ
凛は玄関前で小さく深呼吸していた
(やば…緊張する…)
浴衣なんて久しぶりだった
水色の地に小さな桜模様が散った一枚
髪も母に軽くまとめてもらっていて
自分でも少しだけ「女の子らしいかも…」と思っていた
(でも…凪になんて言われるかな…)
その時だった
ピンポーン、とチャイムが鳴った
ドアを開けると
私服姿の凪が立っていた
「…よ」
「…」
凪の視線が一瞬だけ止まる
無言のまま凛をじっと見つめたあと
ゆるく口元を緩めた
「可愛い」
「や、やめて…!」
「反則だろ それ」
「うるさい…!」
凪は軽く頭を撫でてから
「行くぞ」と自然に手を差し出してきた
そのまま手を繋いで歩き出す
会場へ向かう途中
すでに人混みはかなり増えてきていた
屋台の明かりがチラチラと揺れて
どこからかかき氷の甘い匂いと
焼きそばの香ばしい匂いが漂ってきた
「なあ」
「…ん?」
「今日 ずっと手離さねえから」
「…っ」
「人混みとか他の奴とか関係ねえ」
「…ほんとに独占欲すごい…」
「お前が俺だけ見てんなら問題ねえだろ」
(ほんとに…ずるい)
(でも こんなの嫌いじゃない…)
打ち上げが始まる頃には
空はすっかり群青色に沈んでいた
ドンッ――
夜空に咲く大輪の花
鮮やかな色が一瞬だけふたりの顔を照らした
凛は自然に隣の凪に寄りかかる
「…綺麗…」
「そうだな」
凪は視線を夜空じゃなく
寄り添う凛の横顔に落としていた
「花火もいいけど」
「お前のが綺麗だけどな」
「っ…!」
「ほんとに…ずるい…!」
「俺の特権だろ」
ドンッ――
夜空に花が咲くたび
凛の心臓も一緒に跳ね続けていた
(ずっと…こうしていたいな…)
(ずっと…)
ーーー