幼なじみに溺れました

静かに始まる火種


ーーー



 

昼休みの教室はいつもと変わらず賑やかだった

凪の周りには今日も女子たちが自然に集まっている

 

「なぎくん 部活入るの?」

「先輩たちも狙ってるらしいよ」

「どの部入るの?」

 

「んー 気分」

 

凪はいつも通り飄々と答えている

その様子を見ながら凛は机の上の弁当を黙々と食べていた

 

隣で普通に食べてる凪に慣れたような慣れてないような複雑な感情が混ざっていた

 

突然唐揚げをつまんでくるのももう何度目かわからない

 

「…ねえ 勝手に取るのやめて」

 

「うまいんだからいいじゃん」

 

「自分のあるでしょ?」

 

「人の方がうまく感じんだよな」

 

ほんとにムカつくのに
なんか顔が赤くなる自分がもっとムカつく

 

そんな時だった

すぐ後ろの席からわざとらしく少し大きめの声が聞こえてきた

 

「ねえねえ 聞いたー?」

 

「え 何?」

 

「凪くん 中学の時からずっと彼女何人もいたらしいよ」

 

「やば!ほんとなんだ」

 

「でもさ 彼 本命とか作らないって噂もあるよ」

 

「え どういうこと?」

 

「キスも簡単にはしないらしい」

 

「はあ?なにそれ余計気になるんだけど!」

 

わざと聞こえるように話してるのが明らかだった

耳に入れたくなくても自然と入ってきてしまう

 

凛は黙って弁当を食べ続けるしかなかった

 

沙耶が隣からそっと小声で話しかけてきた

 

「凛 あれ絶対狙って牽制してるよね」

 

「…何が?」

 

「いやだって いつも凪くんの近くにいるのあんただし」

 

「別に好きでいるわけじゃないけど」

 

「そうなんだけどね でもさー なんか危うくない?あの感じ」

 

「……はあ…」

 

深くため息が出た

 

教室の空気がちょっとずつ変わってきているのは
自分でも薄々感じていた

 

まだ凪が自分に特別な態度を取ってるなんて思いたくはない

でも

毎日こうやって絡まれ続けると
周りの視線が刺さってくるのは避けられなかった

 

放課後

教室を出ようと立ち上がった時も

すっと凪が横に並んで歩き始めた

 

「なに?ついてこないでよ」

 

「別についてってねえし 同じ方向だろ」

 

「わざわざ隣歩く必要ないよね」

 

「いや なんか今の顔ムカついたから見てただけ」

 

「…は?」

 

思わず足を止めると
凪はまた例のニヤッとした笑いを浮かべた

 

「冗談だって」

 

「ほんとに意味わかんない」

 

イライラするのに心臓だけは落ち着かなくなる

 

(…なんなんだろう ほんとに)

 

こうしてじわじわと
自分でも気付かないうちに
凪に振り回される日々が続いていった

 

ーーー

 
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