幼なじみに溺れました

文化祭当日


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文化祭当日

朝から校内は活気に包まれていた

廊下には飾り付けが並び 音楽が流れ 制服のままテンションが高い生徒たちの声が響いていた

 

「緊張するね…」

凛は控えめに呟いた

 

「大丈夫だって 凛かわいいし制服カフェ似合ってる!」

沙耶がテンション高めに肩をポンっと叩いてくる

 

「絶対客いっぱい来るよ」

「ほんとやだ…」

 

凛は文化祭実行委員に押し切られる形で接客担当に回ることになっていた

本当は裏方希望だったはずなのに気付いたら配属されていた

その裏にはもちろん凪のゴリ押しもあった

 

「似合ってるからいいじゃん」

 

本人は軽く笑いながらそう言ってたけど
本音は絶対別にあった気がしてならなかった

 

カフェの制服は白いシャツに黒の膝丈スカート 小さな蝶ネクタイとエプロンがついている

鏡で見ると確かにそれっぽくは見えた

けどやっぱり慣れない

 

準備が終わり店内に客が入り始めるとすぐに賑わいが生まれた

 

「いらっしゃいませ…!」

 

最初はぎこちなかった凛も 少しずつ接客に慣れてきた

笑顔でオーダーを取り運んでいく

忙しさが緊張を上書きしていった

 

だけど

その忙しさの合間にも ふとした瞬間に視線を感じる

 

目を向けると

客引き係をしていた凪がこちらをじっと見ていた

誰かに話しかけられても
その目線だけはずっとこっちに向けられていた

 

(…何あれ)

 

ドキドキするのを誤魔化しながらメニューを配る

けど心臓の音がやたらうるさい

 

休憩時間になり裏手の控え室に戻ると
すぐ後ろから凪が入ってきた

 

「よくやってんじゃん」

 

「……別に」

 

「笑顔作れてたな」

 

「当たり前でしょ」

 

「でも 俺の前じゃ顔強張ってる」

 

「うるさいな」

 

「まあ…」

凪はポケットに手を突っ込んだままゆるく笑う

「その素直じゃねえとこが面白いから ずっと見てたけど」

 

「は?なんで見てたの」

 

「いや かわいかったから?」

 

急にさらっと言われて言葉が詰まる

顔が熱くなるのが分かった

 

「……ほんとに そういうのやめて」

 

「何が」

 

「そういう軽いの 苦手だから」

 

凪は一瞬だけ間を置いてニヤっと笑った

 

「そう?でも 俺は面白いけど?」 

低く小さくそう呟いた声が
耳元で妙に残った

 

「…は?なにそれ」

 

凛は小さく呟いた

 

教室に戻るとまた女子たちの視線が集まってくるのが分かった

その空気を感じながらも
凛は無理やり気にしてないふりを続けていた

 

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