犬猿の仲でも溺愛が止まりません!
「なんや〜遠慮せえへんでええのに」
佐原はムスッとして大阪駅前でなかなか夏希を帰さない。
「ばか!こういう時はちゃんと親子だけで時間作らないと!
……でも、本当良かったね……」
微笑むと、
「あー!かわええ!なぁ、もう1日いてくれへん?あちこち案内するで!」
「そんなこと言ってないで、早くお父様のところに行ってらっしゃい」
ギロッと睨む。
「……伊藤、次会えるのはいつなんやろうな……」
と、切なそうな佐原。
「……。お父様が元気になったらまた東京帰ってくるんでしょ?」
夏希もこれからのことが分からないから、不安もある。それに、大事な話を一切できなかった……。
気持ちを伝えて一番近くで支えようと思ったのに!!
佐原は当然のように笑いながらドーンと胸を叩く。
「もちろんや!もっとバリバリ働いて力つけんと!次も負けへんで!」
「……ん。待ってる」
夏希が小さく言うと、
「なんや〜かわええ〜病院もうちょい遅く行こうかな〜」
と佐原はモジモジする。
「ばぁっか!いつまでも大阪にいると、私が東京でどんどん成果あげちゃうからね!」
と佐原をどつく。
「分かったって。早う帰るわ。ほんまに……」
夏希のどついた手をギュッとつかみ、佐原は手の甲にチュッとした。
「!」
「これは騎士の誓いや」
「だ、だれが騎士なのよ!」
真っ赤になって動揺して言うと、
「また、連絡するから。待っとってや……」
佐原は真剣な顔をした。
佐原とは駅前で別れた。
はっきりとした関係は無いが、佐原をいつもより近くに感じ、夏希は今まで感じていた不安が少し解消された気がした。
(後は、社長が元気になれば、佐原は………)
「あらあら、こんなところに蝿がおったわぁ」
可憐だが、なんとも胸糞が悪い声が聞こえた。
「……玲香さん……」
玲香は美しい藤色の着物を着て、髪の毛はアップにして美しい立ち姿だ。
「奇遇どすえ〜やぁっと、帰る気になったんえ?」
「……私は東京で仕事がありますので」
あまりここで話しても嫌味を言われるだけだと夏希はさっと帰ろうとした。
玲香ははんなりとした動作で夏希の行く手を塞ぐ。
「涼司はんはこれから大変ですえ」
「……分かってます」
「ほんまに分かってはる?
……私はただの料亭の娘やあらへん。父は山野ホールディングスの社長なんよ。昔から家族ぐるみで仲良うさせてもらってましたわ。
私も涼司はんと似た境遇にあってな。兄が今副社長として父を手伝っとりますの。でも、私も昔から兄とともに帝王学を学ばせてもろてな。
涼司はんはこれから社長にならはるお方。私なら一緒に戦えます」
「や、山野ホールディングス……」
佐原が契約を取ってきて、大騒ぎになったあの大企業だ……。
夏希は頭をガンと殴られたような気持ちになる。
「父も涼司はんを大変気に入っておりますの。お父様が大変な今、うちは全力で支えるつもりどす。
……近いうち、婚約の話も出ると思いますわ」
玲香は勝ち誇ったような顔で夏希を見る。
「……婚約……だ、誰の?」
ピンと来ない夏希は呆然と聞き返す。
「分からないお人ですね。わたと涼司はんとのですよ!」
玲香はイラッとして声を荒げる。
「そ、そんな話誰もしてなかったですよ!」
夏希は言い返す。
「これからその話も出ると思います。お父様はしばらくは療養が必要。その時、お父様が頼れるのは涼司はん。そして、それを支えるのは私の父。それならば、私との婚約がセットになっていたって構わへんでしょ?」
玲香はふふふと妖艶に笑う。
「だから、蝿は早ういなくなってくださいな。
ほな、さいなら」
と、深々とお辞儀をして、玲香は颯爽と去っていった。