犬猿の仲でも溺愛が止まりません!
夏希はがむしゃらに働いた。
それはもう鬼気迫る……と言って良いらしい。
由佳は会うたびに心配して、声をかけてきた。
それでも、夏希はやるしか無いと空元気で働きまくった。
花金。
夏希はフラフラと家に着き、玄関に座り込んだ。
「はぁ〜……疲れた」
携帯をチラッと見てしまう。
……もう1週間だ。
佐原と玲香の写真は沢山目につくのに、佐原からは連絡が無い。
プルルルルル
「え!!」
夏希は慌てて電話を取る。
「やっほー♡彩香ちゃんだよぉ!」
殴りたくなるような明るい声が聞こえてきた。
「……彩香……」
「佐原きゅんじゃなくてごめんねぇ〜♡
今からいつもの居酒屋来れる〜?」
「……へ?」
「緊急集合だよぉ」
相変わらずプリプリの声を出して、よく分からないことを言う。
「15分後〜?」
「……え、今帰ったばかり」
「緊急集合なのぉ!!」
言葉の途中で遮られる。
なんとなく彩香の声に一生懸命なものを感じて、
「……分かった。15分後に行く」
と返事をした。
いつものTシャツにデニム。野球帽をかぶってラフな格好で居酒屋に到着した。
「……ん?」
そこには晴れてカップルになった樹さんと彩香がいた。
「なんだー樹さんもいたんだね」
「そうなの♡」
樹は柔らかに微笑み会釈した。
「どうも」
「良かったぁ〜ちゃんと15分後に来たぁ!」
彩香は嬉しそうだ。
「……で、彩香なんなの?」
ちょっと不思議な誘いに戸惑いつつ、夏希が聞くと、
樹が返事した。
「涼司のことなんだ」
夏希はびっくりして、
「へぇ?」
と変な声が出た。
「あいつ、今めちゃくちゃ監視されてるんだ」
「え!」
物騒な言葉に夏希は目を丸くした。
「お父様が目覚めて、社長代理をすることになった。そこまでは知ってるよな?」
「……う、うん。会社でも噂になってる」
「それを助ける形で山野ホールディングスの社長が出てきたんだ。倒れて計画がうまくいかなくなったものもあったらしいんだが、山野ホールディングスの社長たちが手伝って立て直しているらしい。そこで、出てきたのが山野玲香だ」
「!!」
「彼女が厄介でな。始終監視されて、電話もできないらしい」
急に重い空気が流れた。
「それで、俺の出番ってわけ」
にこりと樹が笑う。